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多国籍企業が各国政府と協調しながら法整備に関与する「企業外交」という考え方が生まれ始めている。注力するのが米大手IT企業のマイクロソフトで、サイバーテロや個人情報保護に対する問題のルール作りに関わる。世界の情報インフラの大部分を担う企業が国際基準の策定に際し、国家と同等に口を出すのは珍しくなくなった。

マイクロソフトは、テクノロジーが原因で生じた世界的な諸問題の解決策を、各国と協調して考え出そうと働きかけている(写真=アフロ)

 米マイクロソフトは外交担当の閣僚を擁する「デジタル国家」なのだろうか。この問いに対し、この巨大ソフトウエア企業で社長兼最高法務責任者 を務めるブラッド・スミス氏の答えは実に抜かりない。通常、国家とは政府によって運営されるものであり、企業は国法に従わなければならないものだ。だが彼は、最近のマイクロソフトは、ビジネスを展開するに当たり、世界の地政学的な動きにも注意を払うようにしている、と話す。

 大企業は絶えず世界の政府への働きかけを行ってきた。大手製薬会社や石油メジャー(国際石油資本)の例を見ればよく分かる。時には本国政府の外交部と密な連携が取られることもある。

 例えば2017年には、米エクソンモービルでCEO(最高経営責任者)を務めたレックス・ティラーソン氏がドナルド・トランプ政権初の国務長官となった(ただし多少の問題もあり、短期間で解任された)。グローバル化した世界では、多国籍企業は「企業外交」から恩恵を得ることができる。「企業外交」とはステファニー・ヘア氏とティモシー・フォート氏が11年に発表した論文中に記した造語で、企業が市場に合わせて自らの価値観や優先事項を調整することを指す。

 どこよりもそれを実践しているように見えるのが大手IT(情報技術)企業だ。巨大デジタル企業が抱える組織は時として、アナログなものより大きな存在となっている(米フェイスブックの月間利用者数は24億人で、中国の人口の1.7倍にあたる)。デジタル大手は様々な産業に強烈な影響を与え、社会のありとあらゆる場所に浸透し、サイバースペースで幅を利かせて独自のルールを数多く打ち立てている。この点を認めた一部の国は、米サンフランシスコにある自国の領事館を事実上の「技術大使館」に格上げしようとしている。17年、デンマークは他国に先駆けてテクノロジーの都、米シリコンバレーに使者を送った。欧州連合(EU)はこの地に活動拠点の設置を検討している。