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戦後の金融秩序を形成したブレトンウッズ体制は、ブレトンウッズIIに軟着陸した。だが、このブレトンウッズIIも、トランプ米大統領が繰り出す貿易・通貨戦争によって危機に直面する。ドル・ユーロ・元からなる多極体制も実現しそうにない。世界はブロック経済という過ちを再び犯すのか。

ニクソン大統領(当時)の決断で、ドルは金による裏付けを失った(写真=2点:AP/アフロ)

 1971年8月15日、米国のリチャード・ニクソン大統領(当時)は国民にこう語った。「米国はもはや片手を背中に縛られたまま競争する必要はない」。同大統領はドルと金との交換を停止するとともに、輸入課徴金を導入。第二次世界大戦後に構築された経済秩序(編集部注:ブレトンウッズ体制)の終焉(しゅうえん)を先触れした。

 今日、この声明が引き起こした混乱(編集部注:ニクソンショック)から生まれた現在の経済秩序が維持されるかどうか、危ぶまれる事態となっている。

 現在とは異なる状況下でなら、現行の経済秩序が瓦解してもさほど嘆くには及ばないかもしれない。だが2019年8月に入り、現行のグローバル金融制度が別の制度へと成功裏に移行する見通しは、日を追って暗くなっている。

 ほとんどの国が自国通貨を擁しており、これが国際貿易を複雑なものにしている。それぞれの国の通貨は個別の要因によって異なる動きを示す。通貨の価値を下落させて競争力を押し上げることも可能だ。

国際金融のトリレンマ

 通貨を管理しようとする各国政府の取り組みは、一定のトレードオフによって制約される。自国通貨の価値を、(編集部注:外国通貨や金など)海外に存在する基準への連動(ペッグ)によって安定させる方策を選択すれば、金融政策の独立性もしくは自由な資本移動のいずれかを放棄しなければならない。いずれかを選び、いずれかを捨てることで成り立つ金融秩序は、機能しなくなればそれまでだ。かつて機能していた米中経済対立を解くための枠組みは、もはや機能しない。

 今、かかる状況が起きている。世界初の偉大なグローバリゼーションの時代は、19世紀末に金本位制度の上に構築された。各国政府は、国内経済に対するコントロールをある程度犠牲にして、金に対する自国通貨の価値を固定した。

 だが世界経済が大恐慌に苦しむ中で、この選択を維持することができなくなった。各国政府が金融面でのコミットメントを果たせなくなったからだ。各国は次々に通貨を切り下げ、その貿易相手国は報復措置として関税を引き上げた。この結果、世界は幾つかの通貨ブロックに分断された。

日経ビジネス2019年8月26日号 82~83ページより目次