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収まる気配を見せない香港のデモについて、中国政府は米国や台湾が陰で扇動していると唱える。こうした陰謀説にはまるで根拠がないが、中国政府にとってはそう主張するほうが都合がよい。中国の指導者たちが本当にそう信じ、世界の現状から目をそらしているとしたら危険だ。

デモ参加者の中には米国の星条旗を持ち出す者もいる(写真=AFP/アフロ)

 中国政府は、香港のデモの背後に外国の「黒い手」があると主張している。この主張は愚にもつかないものだが、残念なことに、中国本土では広く信じられている。普通の愛国的な中国国民がこうした噂を広めているのを見ると、偽情報の力を再認識させられる。

 米中央情報局(CIA)が、だまされやすい香港人にお金を払ってデモに参加させているとか、深夜便の飛行機に外国人の扇動者をもぐり込ませているといった類いの噂だ(この噂を筆者は香港空港で客を待つ運転手から聞いた)。

 その一方で、この「黒い手」説を中国共産党の幹部らがある程度信じている様子が見られる。そうとなると、残念を通り越して、はっきりと警戒すべき事態だ。200万人もの香港市民を外国人がだましたり扇動したりしてデモ行進に参加させているというこの噂の核心部分については、何の証拠もないし、常識からいっても考えられない。

 外国が関与しているという非難は、デモがまだまったく平和裏に行われている段階から始まっていた。その頃、デモ隊の要求は逃亡犯条例改正案だけに向けられていた。この案は、犯罪容疑者を香港の欧米的な司法制度のもとから中国共産党が監督する本土の裁判所へと送るのを可能にするものだった。

 中国政府のプロパガンダを広める者たちによれば、学生や年金生活者、スクラブを着た医師や黒スーツの弁護士、勤務時間外の公務員、乳母車を押す親などがみな自分の自由意思で結集したことなどこれまでなかった。それゆえデモの参加者は、よくてだまされやすい人たち。最悪の場合、中国人であることを恥じ、外国人を愛する、民族の裏切り者に違いない、ということになる。

「カラー革命を再演する意図」

 デモが暴力的になるにつれ、これを非難するトーンも高まった。警官たちと、少なくとも1人の本土の報道機関の記者が、虚無主義的な怒りに駆られた若い過激派集団に暴行を受けた。

 客観的な目で見れば、その原因の一端が、しばらく前から警察がデモ隊への潜入捜査を始めていたこと、さらには暴力的な鎮圧を行ったことに対するおびえにあるのは明確だ。また、デモ隊が現実主義的なアプローチを取るのに応じて逃亡犯条例の改正案を棚上げした香港政府が、それ以上の譲歩を見せないことも彼らの疑念を強めている。

日経ビジネス2019年8月26日号 80~81ページより目次