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2020年の米大統領選に向けた民主党の指名者争いで、オバマ前大統領の政策の復活を掲げる動きが見られない。トランプ大統領就任後の「分断」が、民主党の政策を過激で攻撃的なものに変えてしまった。しかし、マイノリティー出身の候補者が支持を集める等、オバマ氏の「遺産」は確実に受け継がれている。

民主党の大統領選候補者が一堂に会し、議論を戦わせた(写真=The New York Times/Redux/アフロ)

 トランプ米大統領は、イラン核合意から気候変動に関わるパリ協定まで、オバマ氏の功績とされるものすべてを踏みにじろうとしている。彼のこうした試みはほぼ完成しそうな勢いだが、1つだけまだできていないことがある。

 それはオバマケアの撤廃だ。共和党はオバマケアの一部を無効にすることしかできなかった。それだけに、トランプ大統領の再選を阻むべく出馬する民主党の大統領選候補者のほとんどが、この仕事をトランプ大統領に代わって成し遂げてしまうかもしれないのは皮肉なことだ。

 オバマケアの復活を公約に掲げている民主党候補者はほとんどいない。最大の例外はジョー・バイデン前副大統領だ。彼はオバマ政権のナンバー2として、医療保険制度改革法の成立に尽力した。だがそのバイデン氏ですら、オバマ氏とのつながりを誇るべきか、それとも彼の話題をそらした方がいいのか、決めかねている。

 民主党の大統領候補の指名者争いに名乗りを上げている候補者は誰も、直接オバマ氏を攻撃してはいない。だが黙っているからといって、オバマ氏から断固として距離を置こうとしている事実が変わるわけでもない。

 こうした状態も、トランプ大統領が作り出しているのかもしれない。彼は焦土作戦のごとく、オバマ大統領時代のすべてを否定するのみならず、オバマ政権が前提としていたものを壊してしまった。オバマ氏は米国民の共通の理念を見いだすという崇高な公約を掲げて大統領選に勝利した。彼が描く世界には赤い州(共和党が強い州)や青い州(民主党が強い州)などない。ただ、アメリカ合衆国があるだけだった。

「共通の理念」捨てた民主党

 あれから本当に10年しか経っていないのだろうか。民主党にとって、トランプ政権の始まりがすべての悪夢の始まりだった。選挙戦で負けたショックを延々と引きずり、2008年の大統領選挙でオバマ氏が大規模なキャンペーン戦の末に勝ち取った勝利をすっかり忘れてしまっている。

 このことが、民主党の大統領選候補者選びで首位を走るバイデン氏と、次の候補者との間にほとんど差がついていない理由の1つなのかもしれない。他の23人の候補者と違い、バイデン氏はトランプ大統領が正常から大きく逸脱した人物と考えている。そして20年、彼がトランプ大統領を打ち負かせば、米国はオバマ時代のような社会に確実に戻ることができると訴える。

 こうしたバイデン氏の前向きな見方に共感する者はほとんどいない。現在の米国はあまりにも大きく分断されてしまっていて、ささやかな希望に懸けることすらできなくなっている。