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香港でポカリスエットが政治的抗議活動の象徴となった。中国寄りテレビ局での広告を取りやめたためだ。企業は、抗議活動を支持すれば香港では評価されるが、中国本土のソーシャルメディアでたたかれる。ナイキやピザハットなど香港と中国本土の両方で展開するブランドは対応に苦慮している。

逃亡犯条例に反対して座り込む若者。足元にポカリスエットのボトルが置かれている(写真=ZUMA Press/アフロ)

 日本の大塚製薬の健康飲料「ポカリスエット」はアジア各国のスポーツ好きに愛されている。香港の広告では「スエット・イズ・ファン(汗を流すのは楽しい)」と訴える。

 その香港で今年の夏、何百万人もの市民が新しいスポーツを始めた。デモ行進だ。始まった当初は、容疑者の中国本土への引き渡しを可能にする問題含みの「逃亡犯条例」改正案に反対するデモだったが、次第に、中国寄りの姿勢を取る香港政府に対する抗議活動へと発展していった。その中で、多くのデモ参加者が手に握っているのがポカリスエットのボトルだ。

 ポカリスエットが水分補給ドリンクから政治的抗議活動の象徴へと変わったきっかけは、大塚製薬の香港グループ企業と顧客が7月9日にフェイスブック上で交わしたやり取りだった。その中で同社が地元テレビ局、無線電視(TVB)で流していた広告を取りやめると明らかにしたのだ。TVBについて、民主活動家らは、自分たちのことをフェアに扱っていないと指摘していた。現地企業は、TVBを「一般市民の懸念に対応」させるべく「先取りで動いた」と述べた。

 これ以後、ポカリスエットの缶はネット上にアップされる変革ネタのミーム(文字付き画像)の多くで使われるようになった。

吉野家への評価は急変

 消費者向けの商品を取り扱う世界企業は、顧客として取り込みたい20代から30代の人々が大切にする先進的な主張を進んで受け入れることが多い。

 しかし香港では、中国本土の消費者の意向をおもんばかる必要がある。社会に対してどのような姿勢を取るか、企業は単純には決められなくなっている。中国本土では、政府に反対の意向を示すことはしばしば反逆的と見なされる。

 香港の抗議活動に同調する姿勢をある程度明らかにしている企業もある。香港のコンドームメーカー、ワンダー・ライフはフェイスブックに、TVBに対して消費者が抱く異議に鑑みて、広告を取りやめると投稿した。

 態度がやや曖昧な会社もある。米国の保険会社シグナの香港事業所は、TVBでの広告を取りやめるとしたが、ソーシャルメディア上でその理由を次のように説明した。「私たちはブランドを広め、みなさまの健康と幸福のパートナーになるというミッションを推進するために、メディア戦略を常に見直しています」

日経ビジネス2019年7月29日号 130~131ページより目次