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駐米英国大使の辞任騒動は、トランプ政権に近い次期英首相の有力候補、ボリス・ジョンソン氏にとっては痛手だ。だが彼が英首相となれば、トランプ氏が以前より支持する「合意なきEU離脱」に突入する可能性は十分ある。かろうじて残されている西側諸国同士のつながりは今後、自国第一主義の台頭でことごとく崩されかねない。

トランプ政権を批判する機密文書が流出し、ダロック駐米英国大使は辞任(写真=ロイター/アフロ)

 辞任したサー・キム・ダロック駐米英国大使に同情する必要はないだろう。ダロック氏は他の外交官たちの喝采を浴びながらワシントンを去ろうとしているのだから。外交官を辞めた後には楽しい人生が待っているに違いない。あのように突如キャリアを絶たれた者が、以前よりも高い評価を得るなどめったにないことだ。

 しかしながら英国の先行きに関して、同じことは言えない。ドナルド・トランプ大統領は(編集部注:トランプ政権を批判した)ダロック氏をツイッターで非難・罵倒し、辞任に追いやった。このことが、すでに発足間近と言われるボリス・ジョンソン政権(仮にジョンソン氏が英保守党党首選で勝利したと仮定した場合だが)に、打撃を与えている。

 トランプ大統領がハンガリーのオルバン首相やイタリアのマッテオ・サルビーニ副首相を味方につけたことと、7月末に就任する英国の首相がトランプ大統領の陣営に加わることは、全く異なる意味を持つ。

 トランプ大統領の就任時から、状況はがらりと変わった。就任当時、トランプ大統領は西側諸国の首脳の中で孤立していた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相が気高いモラルを持つ、新たな超大国を率いていくとも言われていた。その数カ月後にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が西側のリーダーに加わった。間もなく首相の座を去るテリーザ・メイ英首相でさえ、暗黙のうちに米国大統領を非難した。

 英国の政治の中で、ポピュリストを寄せ付けなかった分野の一つが外交政策だった。この3年間、気候変動やイラン核合意、イスラエルの二国家共存構想、ルールに基づく国際秩序の支援などに関して、英国は他のEU(欧州連合)加盟国と歩調をそろえてきた。しかし、これらのことすべてが変わるであろう可能性がある。

日経ビジネス2019年7月22日号 88~89ページより目次