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先進諸国の間で、低金利やマイナス金利が常態化している。かつては特殊な出来事の影響で起こるとされていたが、今は「構造的」なものとする見方が広まる。だが、マイナス金利を常態視するのは危険だ。金利が上昇すれば、投資家も金融機関も大きな損害を被る。

欧州(左)、日本(中)、米国(右)の中央銀行総裁はみな金利の動向に神経をとがらせている(写真=左・中:ロイター/アフロ、右:AP/アフロ)

 この夏、ドイツの住宅市場が「不思議の国のアリス」も顔負けの“へんてこ”な世界へと化した。抵当銀行が発行する5年物債券の利回りがマイナス0.2%に落ち込んだのだ。10年前、同様の債券の利回りは(プラス)5%の水準にあった。

 これは欧州最大規模の不動産部門に資金を貸すという特権を得るのと引き換えに、投資家が費用を支払うことを意味する。経済の論理(つまりその重要性)が覆っている。

 この例でその奇妙さが伝わらないなら、次の例はどうだろう。デンマークでは、借り手に対して金利を支払う“マイナス金利”の住宅ローンを一部の金融機関が提供している。主要なドイツ企業の財務担当者は、マイナス利回りで取引される自社の債券について不満を洩らす。フランスとスウェーデンでは10年物国債の利回りがマイナス圏に陥り、ドイツと日本に続いた。

 世界全体では利回りがマイナスの負債の残高が12兆5000億ドル(約1350兆円)以上にまで膨らんでおり、2016年の記録を超えた。

 米国においてさえ10年物国債の利回りが最近2%を割り込んだ。名目値ではプラスを保っているため、そこまで大事には見えないかもしれない。だが、コアインフレ率(変動の激しい食品・エネルギーを除いて算出。現在は約2%)を使って調整した実質値を見るとマイナスに近い。19年第1四半期の経済成長率が3.1%であったことを考えると注目に値する現象だ。

マイナス金利が常態化

 一方で、「それがどうした」と思わず言いたくなる投資家もいるかもしれない。20年前、世界初のマイナス金利が日本の金融市場で発生した時、その衝撃はあまりにも大きかった。国内銀行のコンピューターシステムが収拾のつかない事態に陥ったほどである。

 だが今ではマイナス金利は頻繁に起こる。投資家はこの奇妙な状況にほとんど慣れっこになっている。利回りがマイナスとなった負債の残高がかつてない規模に拡大しても、公の場での議論は驚くほどなされていない。政治家も、そして多くの有権者も、あまり気にしていない様子だ。

 しかし、もし投資家が現在起こりつつあることを見過ごしたり、「これまでもあったことだ」と高をくくったりすれば、それはとんでもない間違いとなる。

 この事態を注視する必要がある明らかな理由の第1は、債券利回りの低下や逆イールド(短期利回りの方が長期利回りより高い状態)の発生が、これまで、景気後退の予兆となってきたことだ。

日経ビジネス2019年7月8日号 130~131ページより目次