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筆者が2020年に景気後退をもたらすリスク要因として挙げていた10項目のうち9つは依然として有効だ。10番目に挙げたFRBは、金融緩和を辞さない姿勢を強めた。だが、万一の時の金利引き下げ余地は小さい。とりわけ注意を要するのは米中貿易戦争の行方だ。新たな金融危機を招きかねない。

ノリエル・ルービニ氏
ニューヨーク大学スターンビジネススクール教授兼、経済分析を手掛けるRGEモニターの会長。米住宅バブル崩壊や金融危機到来を数年前から予測したことで知られる。

 筆者は昨年夏、同僚のブルネロ・ローザ氏とともに、2020年に米国および世界を景気後退に陥れかねない、10の潜在的下方リスクを指摘した。そのうち9つは依然として有効だ。

 リスクの多くは米国に関わる。中国やその他の国との貿易戦争、移民や対外直接投資、技術移転の制限は世界に広がるサプライチェーンに深刻な影響を与える恐れがある。スタグフレーション(インフレを伴う景気後退)の脅威を高めているのだ。17年に実施した減税の効果が尽きていくことを考え合わせれば、米国経済が減速するリスクはより深刻化している。

2018年12月の首脳会談で米国は追加関税を延期した(写真=AP/アフロ)

 一方で、米国の株式市場は、我々が最初に指摘した時と同様にバブルが続いている。さらに、債務を増大させる新手のリスクも登場した。これらは多くの新興市場でも生じている。新興国では多くの債務が外貨建てだ。

 最後の貸し手である中央銀行が打てる手はますます狭まった。流動性が低下した金融市場はフラッシュクラッシュ(株価や相場の瞬間的な急落)など市場を崩壊させる諸要因への抵抗力を失っている。

 こうした崩壊要因をドナルド・トランプ米大統領が引き起こす可能性がある。イランなどを相手に外交危機を演出する誘惑にかられているかもしれない。映画「ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ」が描いたような展開だ(編集部注:主人公の米大統領が醜聞を外交で打開しようとする)。イランとの対立激化はトランプ大統領の支持率を押し上げるかもしれない一方で、石油ショックを引き起こす恐れがある。

 リスクは米国に関連するものだけではない。債務に苦しむ中国やその他の新興市場が抱える成長の脆弱性は依然として懸念材料だ。欧州の政治経済、金融、政策なども同様にリスクを抱える。

 さらに悪いことに、先進諸国全体が実行し得る危機対策はいまなお限られている。08年に金融危機が起きた時は、政府と中央銀行が介入を強めるとともに、民間が緊急対策を実施した。同様の措置を再び講じても、当時と同じ効果は望めない。

日経ビジネス2019年7月1日号 90~91ページより目次