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ペルシャ湾岸諸国は以前から政府系ファンドを立ち上げ、原油価格の変動に備え安全な投資を行ってきた。しかし経済的、政治的情勢の変化に押され、各国はそれぞれリスクの高い投資先へと資金を振り向ける。海外投資を自国産業の発展に役立てようとする動きもあるが、王族の身勝手な運用では成功は見込めない。

中東諸国における政府系ファンドの運用方針は、王族の中でも限られた人間で決められる場合が多い(写真=Saudi Press Agency/ロイター/アフロ)

 今から10年前のシリコンバレーにおいて、米配車サービスのウーバーやサウジアラビアの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)の名前が語られることはほぼなかった。ウーバーはまだサービスを開始していなかったし、PIFは国内産業に投資するだけの小さな存在だった。

 しかし、2019年5月にウーバーが上場した際、PIFは同社にとって5番目に大きい株主だった。PIFは16年にウーバー株の5%を1株当たり49ドル(約5300円)で購入した。上場後の初値は42ドル(約4600円)。数字上、サウジは2億ドル(約220億円)の損失を被ったことになる。

 世界の政府系ファンドは計8兆ドル(約870兆円)もの資産を運用する。その4分の1以上がペルシャ湾岸のクウェート、カタール、サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)の4カ国によるものだ。

 過去数十年の間、これらの国は地味な投資をしていた。サウジの中央銀行は石油から得た富を国債など低リスクで見返りも少ない資産で運用していた。クウェートはごく早い時期に独立の政府系ファンドを設立したが、投資先はやはり国債や優良企業に限られた。

 しかし今は違う。ペルシャ湾岸6カ国の政府系ファンドはいずれも、リスクの高い投資先を増やしている。ベンチャー投資家のように事業を行うファンドもいくつかある。巨額の資金を政治的な同盟を固めるために利用しているファンドもある。そのほかのファンドはそれぞれの国内の企業や産業の支援といったものに投じている。

 湾岸諸国は近代化を進め、石油と天然ガスへの依存から脱却して、経済の多様化を図る必要がある。特にサウジは増加する失業者のために良質な雇用を生み出さなければならない。政府系ファンドはその支えになる。

 当初は、資源価格が急落した場合に備えて歳入を安定させるといった程度の目的で設立されたファンドもある。しかし今では、そうしたファンドもこれまで以上に野心的な目標を与えられている。湾岸諸国で支配権を握る王族たちは、国の蓄えをもっと有効に働かせることを望んでいるのだ。

 王族そのものが問題の一端であり、彼らの気まぐれで何百万ドルもの投資を行うべきではないと不満を漏らす人々もいる。

日経ビジネス2019年6月24日号 94~95ページより目次