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メイ英首相が保守党党首を辞任し、新たな首相選びがスタートした。先頭を走るのはジョンソン氏。トランプ米大統領と同様に移民に否定的で、自らの発言にも責任を持たない。こうした人物を受け入れることで民主主義は力を失う。問われるのは我々の選択だ。

トランプ氏は慣習を破り、ジョンソン氏への支持を明言した(写真=新華社/アフロ)

 バラク・オバマ前米大統領は、ケニア人を祖先に持つため、英国に対する評価は辛らつだ。アフリカの国々は、白人による植民地支配に回帰することで多くのものを得られるだろう。ニカブを身に着けて顔を覆い隠しているイスラム教徒の女性は、郵便ポストか銀行強盗みたいだ。アフリカの人たちはピカニニーのよう*1。大口を開けて笑うその顔は切り分けたスイカに見える。欧州はもうすぐトルコからの移民*2で窮地に陥るだろう。その中には多くのテロリストや犯罪者が含まれる。

 移民を排斥するドナルド・トランプ米大統領の姿勢にはもう誰も驚かない。同氏が大統領になったことで、かつては極右の最たる者だけが口にしていた政治的主張が主流になった。だが冒頭に挙げた感情的な発言は、同氏のものではない。すべて英国の前外相、ボリス・ジョンソン氏の発言だ。

 以前の英国なら、政治家がこのような発言をしたり、賛同したりすれば、すぐさま責任ある地位から追われたものだ。だが今や、ジョンソン氏が英保守党の党首選で勝利し、テリーザ・メイ首相の跡を襲う公算が高まっている。

 ジョンソン氏が党首選に向けて選挙運動を開始したその時、トランプ氏が国賓として英ロンドンを訪れた。トランプ氏は同盟国の内政に干渉しないという慣習に構うことなく、保守党で欧州連合(EU)離脱を推進するリーダー、ジョンソン氏への支持を表明した。

 ジョンソン氏は以前、トランプ氏に対して失礼な発言をしたことがある。だがそれは昔の話だ。ジョンソン氏の政治家としてのキャリアを貫く柱は、自分に利するとみれば即座に方向転換する変わり身の速さである。

エリザベス女王が説いた教訓

 トランプ氏とジョンソン氏はともに国の主権を重視する姿勢を明確にしている。トランプ氏が進める「米国第一主義」の裏には、国際条約や制度のくびきから米国を解き放とうとするしたたかな計算が潜んでいる。同氏は欧州やアジア諸国との多国間貿易協定からも、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からも離脱。イランとの国際核合意も拒絶した。そして北大西洋条約機構(NATO)や、米国と東アジア諸国との同盟網の有用性に疑問を投げかけている。

 英国のエリザベス女王はトランプ氏のために催した公式晩さん会の席で、歴史が語る教訓について穏やかに説いた。「第2次世界大戦がもたらした犠牲をともに負担したのち、紛争の恐怖を二度と繰り返すことがないよう、英国と米国は他の同盟国とともに国際機関の設立に尽力した」「世界は変化しているが、設立された国際機関の『本来の目的』を我々は永遠に忘れない。各国は苦労の末に勝ち取った平和を守っていかなければならない」と出席者に語った。だが悲しいかな、同女王のスピーチをトランプ氏が聞いていたかは、いささか疑問だ。

 ジョンソン氏が抱く英国第一のナショナリズムは、焦点がもっと狭い。気候変動やイラン、NATOなどの問題について同氏は依然として、トランプ氏とは立場を異にしている。ジョンソン氏にとって何よりも重要なのは、EUを離脱し英国議会の主権を回復するという、保守党への忠誠心溢れる誓いだ。党首選に勝利した暁には、何があろうとも10月31日にEUを離脱すると公約する。

日経ビジネス2019年6月17日号 84~85ページより目次