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トランプ政権が科す経済制裁が拡大するにつれ、制裁関連の情報ビジネスが拡大している。船舶の通信データや衛星画像を使って石油などの物流の実態を分析し、顧客に提供する事業だ。制裁違反を犯したくない企業や物流の変化に事業機会を見いだす企業が情報への需要を生んでいる。

北朝鮮産石炭を積み込んだとされる北朝鮮籍船(写真=Department of Justice/ロイター/アフロ)

 1隻のタンカーが2月上旬、ペルシャ湾に入った。イラク沿岸のバスラ石油ターミナルに向かうものと思われた。ところがこの船は位置情報を送るトランスポンダーを切り、行方をくらました。10日後、通信を回復させたタンカーはホルムズ海峡を抜け、アラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラに入港して石油を降ろした。

 そしてまたバスラ方面に向かい、行方が分からなくなり、再び現れてフジャイラに石油を運んだ。過去8カ月間で複数の船が60回以上、このパターンを繰り返している。

 イラン近海でのこうした不審な動きは米国政府の関心を引いている。米国は5月2日、イラン産原油の禁輸措置を強化し、全面禁輸とした。

 上述のタンカーの動きの情報源は国家情報機関ではなく、イスラエルの船舶情報企業ウインドワードだ。同社への出資者の中には米中央情報局(CIA)の元長官デイビッド・ペトレイアス氏や英石油大手BPの元CEO(最高経営責任者)ジョン・ブラウン氏が名前を連ねる。ウインドワードは、経済制裁の迷路で企業が道を誤らずにすむよう、情報を提供しているのだ。

 同社だけではない。増加の一途をたどる制裁は、一部の企業に問題を突き付ける一方で、別の企業にもうけの機会をもたらしている。制裁措置を順守しようとする企業や、制裁の影響を知ろうとする企業を手助けするビジネスが立ち上がりつつあるのだ。

 こうした状況はエネルギー貿易の分野で特に顕著だ。石油企業だけでなく、銀行、資産管理会社、商社、さらにはシップブローカー、海事保険会社、船舶燃料輸送業者、船のオーナーも、制裁に関わる情報を必要とする。

日経ビジネス2019年5月27日号 92~93ページより目次