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2019年のダボス会議に大手たばこメーカーの経営者が珍しく登場した。「無煙たばこは健康リスクが低く、喫煙者の健康を守る」とのメッセージを広めるのが狙いだ。他方、無煙たばこは米国の高校・中学生の間で大流行する弊害を生んでいる。

JUULが中高生の間で大流行している(写真=ロイター/アフロ)

 世界有数のたばこグループ、米フィリップ・モリス・インターナショナルは、スイス・アルプス山脈の山合いの町、ダボスで毎年開催される世界経済フォーラム(WEF)の総会(ダボス会議)への出席を、ここ数年見合わせてきた。それも無理はない。同会議は「世界の現状の改善に向けて取り組む」という崇高な文言で、その使命を説明しているのだから。

 喫煙とがんの因果関係が疑われ出して以降、大手たばこ会社は世界中の人々の健康を損なっているとしてやり玉に挙げられてきた。たばこ会社の経営陣が、ダボスで世界のエリートと顔を合わせても仕方ないと考えるのも当然だった。ダボス会議の側も、たばこ業界のリーダーをパネリストに迎えたいと考えることはなかった。

 だが今年は、いささか興味深い変化が起きた。幾つかのしゃれたホテルの廊下を、フィリップ・モリスのCEO(最高経営責任者)、アンドレ・カランザポラス氏が闊歩(かっぽ)する姿が見られたのだ。同氏がダボスに赴いたのは、新しいメッセージを届けるためだ。「喫煙者の健康を守るため、たばこ業界は政府の支援を必要としている」

 確かに、たばこメーカーの言い分は正しい。フィリップ・モリスは数年前から、米アルトリア・グループや英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)など他の大手たばこメーカーとともに、伝統的な紙巻きたばこから電子たばこに乗り換えるべきだと、喫煙家を促してきた。

 「アイコス」(IQOS、フィリップ・モリス)、「ジュール」(JUUL、ジュール・ラブズ。同社の株式の一部をアルトリアが所有している)、「アイスイッチ」(iSwitch、BAT)などの新しいたばこでは、たばこの煙ではなく、電子的に加熱した水蒸気を吸うことで、ニコチンを体内に取り込む。