現役世代の保険料で高齢者医療を支える構図はなぜ定着してしまったのか。その責任は健保組合が果たしてきた役割を重視してこなかった企業にもある。従業員の健康維持に向けた取り組みは「経済政策」とも捉えられ始めている。
経済界が社会保障制度の見直しについて相次ぎ声を上げ始めた。企業経営者が中心となって2022年に発足した「令和臨調(正式名称は令和国民会議)」は23年4月25日、社会保障についての政策提言を発表。財政・社会保障部会の平野信行共同座長(三菱UFJ銀行特別顧問)は「現状の社会保障制度は産業構造の変化に対応しきれてない」「若い世代へのしわ寄せをしてはいけない」と指摘し、医療・介護や子育てなどの社会保障負担における世代内・世代間の公平性を実現すべきだとの見方を示した。
翌日には経団連が持続可能な資本主義の実現に向けた提言を発表した。今後の社会保障の財源についても言及しており、「社会保険料だけでなく、消費税を含めた様々な税財源の組み合わせによる新たな負担も選択肢とすべきだ」と主張した。

いずれも「現役世代の保険料で高齢者の医療費を支える傾向が強まっている」(経団連資料)との問題意識から、保険料と税金のあり方について見直すよう求めている。
「土光臨調」で決まった路線
現役世代の保険料を中心に高齢者医療を支える現行の路線は、「増税なき財政再建」が唱えられた1980年代に形成された。皮肉なことに、これを訴えたのは「第2次臨時行政調査会」(第2臨調)。経団連会長も務めた土光敏夫氏が会長だったことから「土光臨調」と呼ばれた。
当時、石油危機などにより政府の財政は危機に直面しており、政府・自民党は一般消費税を導入する方針を打ち出した。だがこれを掲げて挑んだ79年の総選挙で自民党は大敗を喫する。「歳出の無駄の見直しが先」と、大きな反発をくらった。
そこで行政改革により財政再建を図ろうと取り組んだのが、81年に発足した土光臨調だった。個人の自助自立の精神を重視し、医療費負担についても税負担より受益と負担の関係が明確な保険料など社会保障の負担を中心に据えた制度が模索された。
この流れを受け83年には現在の後期高齢者医療制度の前身に当たる老人保健制度が、翌年には前期高齢者医療制度の前身となる退職者医療制度が導入される。
経済成長が続く限りは、企業も従業員も保険料負担を相対的に小さく抑えられる。当時は少子高齢化についても広く問題視されてはいなかった。経済界としては景気を冷やしかねない消費税より、保険料負担の方が受け入れやすかったといえる。
Powered by リゾーム?