新たな就活スタイルが生まれても、皆がすぐに行儀良く振る舞うようになるわけではない。選考テストでは学生による不正がはびこり、企業は危うい人材のあぶり出しに躍起だ。本音と建前が交錯する「化かし合い」が積み重なり、相互不信の闇が広がっている。

摘発されたウェブテスト代行は氷山の一角だったと見られている(写真=PIXTA)
摘発されたウェブテスト代行は氷山の一角だったと見られている(写真=PIXTA)

 「自力で受けたら通らなかった」。ウェブ採用テストで「替え玉受験」を依頼した女子学生はこう供述した。2022年11月、関西電力社員(当時)がこの女子学生になりすましてテストを受けたとして逮捕された。東京地裁は今年3月28日、私電磁的記録不正作出・同供用の罪で被告の男に懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。

なりすましは氷山の一角

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 男は女子学生のIDとパスワードで自宅から受験していた。京都大学大学院に在籍していた19年3月ごろに受験代行を始め、ツイッターで「ウェブテスト代行」を名乗るアカウントを開設。20年11月〜22年7月に延べ約300人から約400万円の報酬を得ていたという。

 学生の責任を問う読者は多いだろう。しかし、驚くのは同情の声が上がっていることだ。東京都内の私立大に通う男子学生は「ほかにも“代行”を使っていた人はたくさんいたと思うので、正直かわいそう」と話した。氷山の一角という認識だ。

 代行を使っていると自ら言う学生はさすがに周囲にいなかったが、大学のサークル内ではウェブテストの答案が出回っていた。「先輩にやってもらったり、チームを組んだりして受験している人はいた」。別の女子学生も「本人だけが画面に映り、(オンライン会議アプリの)Zoom(ズーム)でつながった友達に解いてもらった人がいると聞いた」。

注:アッテルが採用担当者300人に調査
注:アッテルが採用担当者300人に調査

 企業の不信感は高まっている。人工知能(AI)を用いた人材採用サービスのアッテル(東京・渋谷)が企業の採用担当者300人に実施したアンケート調査によると、66%が替え玉受験を懸念していると回答した。

 監視サービスも生まれている。ウェブテストのサービスを手掛けるシェアウィズ(大阪市)は、オプションで不正監視システムを企業に提供する。画面の左上に受験者の顔を常時表示し、「試験中、見ていますよ」とのメッセージを暗に送る。

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