世界中のSNSに慣れ親しんだZ世代。未来を担う彼らの人権感覚は世界標準だ。「倫理観が強い職場で、意義ある仕事をしたい」。企業を吟味する物差しも一味違う。多様性を重んじる経営へと転換できるのか。将来世代が企業にこう問いかける。

青学大に新設したヒューマンライツ学科では、映像や当事者の講演を通じて具体的な人権問題について学ぶ
青学大に新設したヒューマンライツ学科では、映像や当事者の講演を通じて具体的な人権問題について学ぶ

 「一人の市民として人間らしい生活とは?」「日本は企業を縛る労働法の規制が緩いのでは?」──。教室で学生が熱心に議論をする。2022年4月に青山学院大学法学部に新設された、ヒューマンライツ学科での授業の一場面だ。目指すのは人権問題を理解して解決できる人材の育成。こうした人権を軸とした学科を設けるのは国内で初めてだ。

 1年生の必修授業「ヒューマンライツの現場」では、ドキュメンタリー映像や当事者の声を紹介する形で、様々な人権問題を取り上げる。冒頭の議論の前には、過労死事件の遺族が登壇した。講演を聞いたうえで、指導教授が関連する法律や切り口を示す。学生は法律でどう解決するか法解釈や立法について議論する。

 重視されるのは、六法全書の丸暗記ではなく現場の実例だ。生の声に触れると、法律だけでは解決できない問題や別の視点にも気づく。初年度は沖縄・辺野古基地や性暴力、原発問題などもテーマになった。

民間企業に人材輩出

 こうした教育課程は、いわゆる人権派弁護士の育成のためではない。青学大法学部の卒業生は大半が民間企業や官公庁などに就職し、同学科も企業や国際機関などへの人材輩出を想定する。

 学部長の申惠丰教授は「人権感覚は国際社会で必須となる普遍的な知識だ」と強調する。「人権は思いやりと混同されがちだが、明確に法で保障されたもの。社会に出たときに自身と他者の人権を守れる素養が必要になっている」と指摘する。

 新設学科に入学した1年生の荻野竣さんは、「中学時代の野球部で経験した厳しい指導方法に共感できなかった」のが志望理由と語る。授業を通じて、子供の体罰には日本の教育制度や法律、人権意識など多面的な問題があると分かったという。2年生以降に学ぶ専門領域を生かし、将来は子供の権利やまちづくりにかかわる仕事に就きたいと話す。

 10~20代前半を指すZ世代が多様性や社会問題に関心が高いという傾向は、世界的な潮流だ。SNS(交流サイト)では、欧米を中心に性的被害を告発するMeToo(ミートゥー)運動やミャンマー市民に連帯する動きが活発化した。「#(ハッシュタグ)」によるSNSの拡散力は強く、人権尊重を叫ぶ中心にいるのは若者だ。

 日本では学校教育の影響も大きい。若者向けマーケティング調査機関SHIBUYA109 lab.の長田麻衣所長は「(ゆとり教育における)総合学習や調べ学習が増え、社会課題に触れる機会が多かった」と指摘する。日本全体ではSDGs(持続可能な開発目標)の中で人権よりも環境に関心が高いという調査結果がある一方、若年層に絞ればその逆の傾向が見えてくる。

 SHIBUYA109 lab.の意識調査で、20歳前後を対象にSDGsの項目の中で日本がより力を入れて取り組むべき課題について聞いたところ、ジェンダー平等が最多だった。貧困や福祉への関心が上位を占め、気候変動や環境保護の優先度は低い。

(写真=PIXTA)
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