欧州や米国は人権侵害を防ぐための法整備を急速に進めてきた。厳しいルールで管理し、企業に人権リスクの調査や情報開示などを義務付ける。その動向は新たな投資基準としても注目され始めたが、日本は出遅れている。

 海外ではここ10年ほどの間に、人権侵害を防ぐため企業に対応を求める法制化が一気に広がった。人類の歴史を振り返れば、強制労働や児童労働は昔からあった。企業の国境を越えた活動が人権に大きな影響を持つようになると、2000年代に入ってからはアフリカの鉱山や東南アジアの農園での劣悪な違法労働が問題視されるようになった。

 対策をめぐる議論が進むと、企業の自主的な取り組みより、基準や法律を整備して企業に社会的責任を守らせる流れが強まっていった。国連人権理事会は11年、「ビジネスと人権に関する指導原則」を承認した。すべての国と企業が守るべきグローバル基準という位置づけだ。

(写真=Shutterstock)
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 この指導原則に基づき、国連は加盟国に対して、人権保護と企業が責任を果たすための政策ガイドラインである国別行動計画(NAP)の作成を求めた。加盟国はNAP策定を進め、さらに欧州各国は次のステップとして法律の整備に着手した。

 その先駆けは、英国が15年に定めた「現代奴隷法」だ。英国で事業をする売上高が3600万ポンド超の企業に、調達先が強制労働や児童労働に関わりがないかなどの人権リスクを調べて声明を出すことを義務付けた。

 英国ではその後も、企業の実務的な対応への後押しが広がる。英国の国家規格を制定する「英国規格協会」(BSI)は22年10月、企業が取引先を含めて人権侵害のリスクを調べる「人権デューデリジェンス」などで違法労働の潜在的な被害者を見つけ、支援するための指針を打ち出した。

 作成に当たったケイト・フィールド氏は「指針は法律と現実のギャップを埋める内容。活用すれば、大企業だけでなく中小企業もサプライチェーン(供給網)の人権侵害リスクを特定しやすくなる」と語る。英国に続いて豪州も現代奴隷法を施行し、奴隷労働と人身取引に関する取り組みの開示を義務化した。

 フランスの企業注意義務法は17年に制定された。従業員数がフランス国内で5000人以上、または国内外で1万人以上の企業に対して、情報を開示するだけでなく、人権デューデリに関する計画を作って実施することを求めた。

「新指針は、法律がカバーできない人権侵害を防ぐ」と語るBSIのケイト・フィールド氏
「新指針は、法律がカバーできない人権侵害を防ぐ」と語るBSIのケイト・フィールド氏
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