悪意ある行動を早期に察知できれば、トラブル発生による被害を最小化できる。テクノロジー進化によって“悪意検出”の精度は上がり、利便性も高まってきた。プライバシーにも目くばせしつつ、悪意から個人や企業を守る「防衛戦」は続く。

ファミリーマートなどが導入するTOUCH TO GOのシステム。店舗の無人化を実現するためのカメラやセンサーは、万引きなどの防犯リスクを下げるという副産物も生む(写真=共同通信)
ファミリーマートなどが導入するTOUCH TO GOのシステム。店舗の無人化を実現するためのカメラやセンサーは、万引きなどの防犯リスクを下げるという副産物も生む(写真=共同通信)

 その店に店員の姿はなかった。利用者が商品を手に取ってセルフレジの前に立つと、購入品の一覧が画面に自動表示される。会計が済むと出口ゲートが開いて店外に出られた。

 日本の玄関口、羽田空港の第2ターミナルの地下1階。鉄道の改札口近くにある土産物店「ANA FESTA GO」は無人店舗決済システムのTOUCH TO GO(東京・港)の技術を導入している。同技術を採用した無人店舗は日本各地に30店舗以上あるといい、2023年度中には約100店舗まで拡大する見通しだ。

万引き許さぬ無人店舗

 人目のない店舗では万引きなどの犯罪リスクが懸念される。現に、導入を検討している企業からは、盗難に関するリスクを心配する声が多いという。だが、実際に無人店舗を運営する事業者からは、「既存の有人店舗よりも万引きなどの発生率は低下しているという声を多く聞く」(TOUCH TO GOの阿久津智紀社長)。それを可能たらしめているのが、店舗の無人運営ができるように整備された様々なテクノロジーだ。

 来店客が手に取った商品が会計時にレジに自動表示されたのは、店内にある無数のカメラやセンサーが利用客の動きを捕捉しているためだ。手に取った商品をこっそりとバッグなどに隠しても、買い物かごに入れていても一緒。未会計のまま店舗を出ようとすれば、出口ゲートは開かない。天井のカメラやセンサーは目立つように設置しており、盗難を抑止する効果もある。

 加えて、店内には別途、有人店舗と同様の防犯カメラも設置している。もし会計を済ませずにゲートを強行突破する来店客がいても、何を盗んだかは無数のカメラとセンサーが把握し、「犯人」の容貌や体格などは防犯カメラが記録する。有人店舗の場合は、万引きされても証拠が残らない場合が少なくない。常時監視している無人店舗なら映像を使って警察などへの被害説明がしやすい。

 もっとも、TOUCH TO GOの技術は防犯を意識して設計されているわけではない。重視しているのは消費者の利便性向上、そして事業者のコスト削減や人手不足解消だ。阿久津氏は消費者の入店への心理的障壁を減らすべく、出口ゲートを撤去できないかと考え始めている。「ゲートの代わりに警告音を鳴らすなど、工夫はできる」

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