次々と消費者の悪意にさらされた外食企業は、ビジネスモデルの変革を迫られた。生活者と生産者が「持ちつ持たれつ」の関係で進化してきた日本の消費の現場。「お客様至上主義」の独り歩きが招いた現場の崩壊を食い止める方法はあるか。

「お客様の不安解消と“回転寿司”文化の存続を目指す」。3月、回転ずしチェーンのくら寿司はこう銘打ち、AI(人工知能)やカメラを駆使し、回転レーン上での消費者の動きを監視するシステムを全国の店舗に導入した。きっかけとなったのは紛れもなく、回転ずしチェーンで相次いだ、迷惑行為を撮影した動画の拡散だ。
レーンを回るすしを手づかみで取って食べ、しょうゆ差しに口を付ける……。くら寿司を巡っても3月、こんな行為を収めた動画をSNS(交流サイト)に投稿したとされる男女3人が、威力業務妨害の疑いで逮捕された。同社の担当者は「悪意のある行為の抑止につながれば」と対策の導入を大々的に打ち出したと明かす。
目の前を流れる様々なすしや料理を手軽に楽しめるというエンターテインメント性で人気を博す回転ずしチェーン。一般的に原価率が高いとされる業態ながら、手軽さを担保する安価を実現するため、各社は様々な業務効率化策を打ってきた。回転レーンを使って配膳の手間を省くのはもちろんのこと、お茶やガリ、しょうゆなど調味料のセルフ提供などもその一環だった。
ただ、一連の迷惑動画の投稿・拡散を一つのきっかけに、利便性向上の施策が逆回転。「悪意につけ込まれるリスクを高めている」との認識が広がった。回転ずしチェーンのビジネスモデルは揺らぐ。「ペロペロ動画」の拡散直後、時価総額が一時約170億円吹き飛んだあきんどスシローは暫定的に、卓上のタッチパネルから注文された商品のみを回転レーンで提供する形に変更している。「すし銚子丸」の運営会社に至っては、回転レーンでのすし提供を取りやめる決断をした。

Powered by リゾーム?