ChatGPTを生んだ頭脳集団、米オープンAIとは何者か。なぜAIは急激に発達し、なぜ対話できるようになったのか。生成AI誕生の舞台裏には、4つの革新があった。

ブティックやカフェなどが多く集まり流行の発信地として知られる米サンフランシスコ・ミッション地区に、古ぼけた木造3階建ての建築物がある。木材による灰色の外装はおよそオフィスには見えず、ほぼ全てのカーテンが閉められて内部はうかがい知れない。ここが、世界を席巻するChatGPTが生まれた場所、米オープンAIの本社である。
「全人類が汎用AI(人工知能)の恩恵にあずかれるようにする」。オープンAIはこのミッションを掲げて2015年12月に産声を上げた。
現CEO(最高経営責任者)であるサム・アルトマン氏や米ツイッターCEOのイーロン・マスク氏が非営利のAI研究機関として設立。10億ドル(約1360億円)もの資本金を集め、設立当時から注目の的となった。
チーフサイエンティストは米グーグルでAI開発を主導したイリヤ・サツキバー氏、開発のリーダーは機械学習の一種「強化学習」の第一人者であるジョン・シュルマン氏……。錚々(そうそう)たる顔ぶれは「世界最高峰の頭脳集団」と呼ばれる。
19年3月には営利企業「オープンAI LP」を設立。出資者に対するリターン上限を事前交渉で決め、それを超えた利益を非営利部門であるオープンAIに還元する組織構造となった。米マイクロソフトが10億ドルを投資したのはこのタイミングだ。
知る人ぞ知る世界有数のAI研究機関だった同社が米国内で認知を一気に広げたきっかけは、20年7月に著名エンジニアのマヌエル・アラオス氏が公開した1本のブログ記事だ。
ブログの内容はこうだ。オープンAIは大規模言語モデル「GPT-3」を開発した。高度な文章を生成できるモデルで、ブロックチェーンに匹敵する破壊的可能性を秘めている──。オープンAIの歴史や技術的背景、モデルの活用方法などをつづった。
実は、このブログの核心は内容以外の部分にあった。「告白しよう。このブログは私が書いたのではなく、GPT-3が書いたものだ」。アラオス氏はブログの末尾にこう付記したのだ。GPT-3に自身の「破壊的可能性」を質問し、答えた内容をコピーしてブログに載せたとし、「あなたは気付きましたか?」と読者に問いかけた。
多くの読者がだまされ、ブログは大反響を呼んだ。「生成AI」の衝撃は、こうして世界に広がった。ChatGPTはGPT-3をベースに対話ができるよう調整などを施した言語モデルとされる。対話機能を持ったことで爆発的にユーザーが増えたが、要素技術は20年に完成していたことになる。
従来のAIは、画像や音声の「認識」、データを基にした異常の「検知」などを得意としていた。AIはいかにして「生成」という能力を身に付けたのか。歴史をひもとくと、4つのブレークスルーが見えてきた。
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