あらゆるコストが上がる中、値上げの巧拙が問われている。客離れを引き起こさないためには、ロイヤルティーを上げるしかない。既存顧客を守るだけでなく、新規顧客の獲得にも濃密な関係づくりが不可欠だ。

 コスト上昇分のうち、価格転嫁できているのは4割程度──。帝国データバンクは2023年1月、約1万1000社の調査結果を公表した。価格転嫁率が高かったのは、卸売業や原材料メーカー。一方、サービス業など消費者向けの業種は総じて低く、2割以下にとどまった。

値上げ打ち消す客離れ

 例えば「1皿100円」を売りにしてきた回転ずし業界では、スシローとくら寿司が22年10月から値上げに踏み切ったが、毎月の既存店売上高は前年比でスシローが約30%減、くら寿司は約5%減に。値上げの効果を打ち消すほどの客離れに苦しむ。

 業界関係者は「値上げをしていない『はま寿司』に客が流れている」と話す。PART1で見たように、スシローもくら寿司もNPSのスコアは低い。ロイヤルティーが低ければ、当然安いほうへと客はなびく。

 消費者の財布のひもは依然として固く、値上げに踏み出せない企業は多い。しかし、値上げに成功した外食チェーンもある。「餃子の王将」を運営する王将フードサービスは、22年5月と11月に2度の値上げを実施。主力のギョーザは税込み242円がまず264円に、さらに275円になった(西日本地区の場合)。にもかかわらず、既存店の客数は22年12月を除いて前年同月比プラスを維持。値上げ効果で客単価も上昇している。

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 王将は「商品の品質・価値の向上を実感いただき、値上げを納得してもらえた」と話す。単なる値上げにならないよう、値上げ前にギョーザをはじめとする売れ筋14品目のレシピを改良。利用者からは「おいしくなった」との声が届いているという。

 しかしそれ以上に注目したいのは同社のファン獲得戦略だ。飲食500円ごとにたまるスタンプを集めると発行される「ぎょうざ倶楽部会員カード」の発行枚数(会員数)は、22年度に過去最高の102万枚となった。

 スタンプ25個の獲得で5%引きの通常会員、さらにスタンプ25個を獲得すると7%引きのプレミアム会員となる仕組み。近年はプレミアム会員の割合が増加し、18年度の29.7%から22年度は43%にまで達した。より来店頻度が高いロイヤルカスタマーの存在が、値上げの局面で強さを見せつけているというわけだ。

 では、顧客との直接的な接点がないメーカーはロイヤルティーをどう高めていけばいいのか。参考になるのは、タカラトミーのミニカーブランド「トミカ」の取り組みだ。

 トミカは22年7月出荷分から、定番シリーズの希望小売価格を8年ぶりに値上げし、税込み495円だったのを550円とした。しかし、トミカが主力となるプリスクールカテゴリーの売上高は22年4~9月期、前年同期比で約7%増と好調を維持。22年のクリスマス商戦も堅調で、客離れは起きていないという。

(写真=上:(C)TOMY)
(写真=上:(C)TOMY)
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