今回のランキング上位にはNPSを経営戦略に組み込んでいる先達企業がある。愛される企業・ブランドになるには、市場の声に耳を傾けることが近道だ。データを手掛かりに課題を見つけ、改善を尽くす取り組みを追う。

 国内のエアラインでは、格安航空会社(LCC)のシェア拡大が続くが、ランキングでは下位に沈んだ。旧来のフルサービスキャリア(FSC)が利用者の支持を集め、トップに立ったのはJAL(日本航空)だった。

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 2020年度までに国内線のNPSを5.3ポイント高める──。JALは17年度から4カ年の中期経営計画でこう掲げた。NPSを経営指標として導入したのだ。他者への推奨度であるNPSを上げるのは、顧客満足度を上げるより難しい。世界トップレベルの顧客満足度を達成するため、あえて高いハードルを自らに課した。

 具体的な施策として、予約、搭乗手続き、機内サービスといったタッチポイントごとの満足度をメールで聞く「デイリーバリュースコア」調査にNPSを追加した。一部の搭乗客が対象で、回答数は年40万~50万に及ぶ。

 膨大な回答を集めることで、様々な分析が可能だ。顧客の属性はもちろん、時間帯、路線、使用機材といった切り口でも比較できる。1年ほどでタッチポイントの満足度とスコアの相関関係も見えてきた。

スコア引き上げ、前倒しで達成

 一つひとつの施策が、スコアに如実に表れる。例えば18年度は前年度に比べて0.1ポイント数値が悪化。年度前半は上昇傾向だったが、18年10月にパイロットの乗務前の飲酒が明らかになり、その後は数値が下落した。信頼回復に努めた結果、19年度は再び上昇に転じた。

 19年度のスコア回復には、新型機材「A350」の就航も寄与している。だが「細かく見ると、A350の機内Wi-Fiサービスだけ満足度が低いことに気付いた」(カスタマー・エクスペリエンス本部CX企画推進部長の上辻理香氏)。すぐ原因究明に動き、機器の設定の問題を突き止めた。2カ月で改修した結果、スコアは明らかに上昇。19年度は、17年度の期初と比べて7.6ポイント増で着地し、中期計画の目標を前倒しで達成した。

(写真=古立 康三)
(写真=古立 康三)
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 NPSは「大きな経営判断にもつながっている」と上辻氏は話す。機材や機内サービスに目が向きがちな中、空港でスムーズに搭乗できないことがスコアの足を引っ張っていることが判明。搭乗までの手続きや空港内を移動する際の快適さを高める「JAL SMART AIRPORT」プロジェクトの展開を決めた。20年の羽田空港を皮切りに、22年までに大阪(伊丹)、那覇、新千歳、福岡の主要5空港への展開を完了した。電子機器やペットボトルを荷物から取り出さずに済む保安検査機器の導入など、空港会社の領域だった部分にまで踏み込んで思い切った改善を進めた。

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 NPSは自らの改善の指針となるだけでなく、ライバルとの比較にも役立つ。次に取り上げる楽天カードはその点に着目している。