米国を中心に物価高騰はいつまで続くのか。景気後退は起こるのか。インド準備銀行(中央銀行)の元総裁でもある経済学者、ラグラム・ラジャン米シカゴ大学経営大学院教授に聞いた。

(聞き手は 広野 彩子)

ラグラム・ラジャン[Raghuram Rajan]氏
2003~06年国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストおよび調査局長、11年米国金融学会会長を経て13~16年にインド準備銀行(中央銀行)総裁。専門は銀行論、企業財務論、経済開発論。主な邦訳書に『フォールト・ラインズ』(新潮社)、『セイヴィング キャピタリズム』(慶応義塾大学出版会)。

世界的にインフレーションが進んでいます。どうご覧になっていますか。

 インフレの行方に影響を与えている3つの力があると思います。一つは景気減速。米国では新型コロナウイルスの大流行でモノが不足し、また人々はモノにしかお金を使えなかったため、物価が上昇しました。しかし、そのとき上がったモノの価格は著しく下がってきています。

 2つ目は米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めで、威力を発揮しています。住宅ローン金利は2倍以上になり、住宅着工が大幅に遅れ、販売の伸びも緩んでいます。他のセクターもより慎重になっています。

 そして労働市場。2022年11月の米雇用統計を見ると、求人件数がまだ多く、需給が逼迫しています。直近の賃金上昇率の数字は、まだインフレ率を下回ってはいるもののかなり高いものでした。FRBは労働市場の需給に余裕が生まれて賃金上昇が落ち着く見通しが立つまで、利上げをやめるわけにはいきません。

インフレはいつまで続くでしょうか。

 今後数カ月はインフレ率が低下すると思います。例えば大きな構成要素の一つである中古車の価格が下がっています。サービス価格の上昇が減速し始めるかどうかが大きな問題だと思いますが、今のところそれを示す強い証拠は見当たりません。賃金はサービス価格の大きな構成要素で、このまま上昇を続ければサービス価格も上昇し、それがインフレを下支えし続けることになりますね。

実質賃金は下がっている

 インフレ率自体は下がるでしょうが、問題は、FRBがちょうどよいと感じる2~2.5%まで下がるのにどれくらい時間がかかるか。早くても23年末から24年初めごろでしょう。