ウクライナ戦争がもたらしたエネルギー危機が欧州を直撃している。物価高が労働者の賃上げ要求につながり、相次ぐストライキが社会基盤を揺さぶる。前年比でのインフレ率はいずれ落ち着くが、生活コストの高止まりは避けられない。

インフレと景気悪化を受け、英国のアーティストがホームレスの増加に警鐘を鳴らすために制作した巨大彫刻をロンドンに展示した(写真=Dan Kitwood/Getty Images)
インフレと景気悪化を受け、英国のアーティストがホームレスの増加に警鐘を鳴らすために制作した巨大彫刻をロンドンに展示した(写真=Dan Kitwood/Getty Images)

 1月中旬のある日の昼過ぎ、英国・ロンドンの食料配給所「フードバンク」には多くの利用者が並んでいた。台所がない人が多いこともあり、人気なのは魚の缶詰と蜂蜜。フードバンク運営組織の2022年11月の調査によると、91%の配給所が前年より利用者が増えたという。一方、インフレーションと景気悪化により寄付される食料が減っているという厳しい状況がある。

 フードバンクの暖房版とも言える「ウオームバンク」もある。自治体や教会、慈善団体が、自宅で暖房代を払えない人たちに無料で暖を取る場所を提供する取り組みだ。

 英国では光熱費を前払いで徴収する仕組みがある。大家がエネルギー代を負担している物件では、暖房を制限されているケースもある。慈善団体「オアシス」は英国で40のウオームバンクを開設し、約2万3000人の利用者がいるという。

欧州、23年はゼロ成長の予測

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 ウクライナ危機に端を発した欧州の物価上昇は市民生活に深刻な影響を及ぼしている。22年12月の消費者物価指数(CPI)の上昇率は、英国が前年同月比10.5%(政府発表)と4カ月連続で2桁増。ドイツは同8.6%で、22年後半は10%超が続いていた。日本では12月のCPIが前年同月比4.0%増と41年ぶりの上昇幅となったが、それをはるかに上回る。

 世界銀行は1月10日、23年の世界全体の経済成長率を前年比1.7%と、22年6月時点の同3.0%から大幅に引き下げた。世界的なインフレや金融引き締めがその背景で、ゼロ成長が予想されるユーロ圏は世界の足を引っ張る。