パナソニックホールディングス(HD)の社長就任から1年半がたつ楠見雄規。思考停止の壁を打ち破ろうと、幹部にも生産現場にも考え抜くことを迫る。社内の文化を変えつつ、事業ポートフォリオの見直しにも踏み込もうとしている。

楠見 雄規パナソニックホールディングス社長兼グループCEO
楠見 雄規パナソニックホールディングス社長兼グループCEO
1989年、旧松下電器産業に入社。主に研究開発畑を歩む。家電を扱うアプライアンス社の副社長などを務め、2019年にオートモーティブ社の社長に就任。トヨタ自動車との電池の共同出資会社設立を主導した。(写真=的野 弘路)

 「大型の冷蔵庫を売り続けないと、売上高が減ってしまう」

 製品をデザインする拠点のパナソニックデザイン京都(京都市)。冷蔵庫を担当する事業部のメンバーがそう言うと、執行役員の臼井重雄が質問した。「本当に、大型製品の需要があり続けると思いますか」

 国内市場で活況なのは小型製品だ。さらに、将来はフードロスの問題が大きくなり、食料を大量に持っておく冷蔵庫がどれだけ必要なのかという疑問も残る。

 さらに臼井は続けた。「消費の流れをもっと広く考えてみると、どんなビジネスが必要になるでしょうか」

 これは「車載システムズ」「ライティング」などで分かれている38の事業部を対象に進めているデザイン経営実践プロジェクトの一幕だ。

 プロジェクトは各事業部から、事業部長と選抜社員の計10人を集める。事業部長は開発や生産の計画を立てる要の存在で、役員を兼務する場合もある。

 しかし、目の前の仕事に没頭するあまり、消費者のニーズや市場の展望をじっくり考えることがおろそかになりかねない。製品などのデザインを担当してきた臼井らHDのチームが、1つの事業部につき4カ月の時間をかけて議論する。2021年11月から始めた取り組みだ。

 発案したのが、21年6月に56歳で社長に就いた楠見。臼井らと半年間にわたって2週間に1度、プロジェクトについて議論した。そして、楠見は何度もこう言った。

 「自分で考えさせろ。すぐに答えのようなことを言うなよ」

 自らの頭で考え抜け──。これは、楠見が発信している大きなメッセージで、幹部らがよく耳にしている。「コンサルに頼るな」とも言う。

(写真=行友 重治)
(写真=行友 重治)
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 楠見は入社以来、研究開発部門を約20年歩んだエンジニア。切れ者といわれ、厳しくしかることもあって部下から恐れられてきた。そんな楠見が、社長になって変わった。強い指示を出さず、「考えろ」と促す。

 このメッセージこそが、楠見の危機感を表すものだ。パナソニックHDが停滞している理由についての考えを示している。そのことを見る前に、業績を振り返ってみたい。

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