2015年にハイテク振興策「中国製造2025」を掲げた中国。「製造強国」を目指し、貪欲に先端技術の獲得に動いている。プリンターに工作機械、医療機器まで、チャイノベーションの今を見ていく。

鴻海精密工業の威海工場では1200万台以上のプリンターを生産
鴻海精密工業の威海工場では1200万台以上のプリンターを生産

 中国北東部にある山東省威海市。三方を黄海に囲まれ水産業が盛んな地方都市にある空港から車を約1時間走らせると、「富士康科技集団(フォックスコン)」の看板が付いた巨大工場が突如として現れる。

2022年7月の開幕式の様子(鴻海のホームページから)
2022年7月の開幕式の様子(鴻海のホームページから)

 世界最大のEMS(電子機器の受託製造サービス)である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が、2022年7月に生産を開始したプリンター工場だ。第1期となる工場への投資額は3億5000万ドル(約490億円)。敷地面積は約29万m2と広く、工場を徒歩で周回すると30分はかかる。

 この新工場で生産されるのは、米HP向けのレーザープリンターやインクジェットプリンターだ。鴻海によると、フル稼働時の生産能力は年間1200万台以上で、売上高は約200億元を見込んでいるという。「鴻海は従業員も多いし、お客がいっぱい来て大変だ」。鴻海の新工場前で小型のスーパーを営む男性は、思わぬ経済効果に笑みを浮かべる。

 鴻海だけではない。新たに立ち上がった工場周辺には、同業となるEMS大手の米ジェイビル・サーキットに加えて、聯想集団(レノボ)や億和精密工業控股(広東省深圳市)などの中国企業も大規模な開発・製造拠点を構築済みだ。他にも、中国や台湾企業が急ピッチで製造拠点の建設を進めている。

 中国メディアの報道によると、新工場周辺には部品や素材などのサプライヤー約120社が集結しているという。「プリンターの開発から製造に至るまで、一大集積地が形成されつつある」と、みずほ銀行産業調査部香港調査チームの鈴木晃祥氏は指摘する。

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世界の3台に1台を威海産に

 先端技術の獲得に並々ならぬ執念を燃やす中国。現在、触手を伸ばすのが、プリンターなど複合機の技術だ。威海市で進む工場の建設ラッシュはその象徴といえる。同市は最終的に年3000万台、世界のプリンターの3台に1台を「威海産」にする目標を掲げている。

 もっとも、複合機の開発・製造には光学だけでなく電気や機械、通信、化学といった幅広い分野の技術を結集させる必要がある。米IDCの調査によるとインクジェットプリンターの台数シェアでは、HPとセイコーエプソン、キヤノン、ブラザー工業の4社で99%超のシェアを占める。現時点では中国企業の存在感はまったくなく、付け入る隙はないように見える。

 中国政府が仕掛けるのは、「禁じ手」とも言える揺さぶりだ。ここにきて、日本など外国企業に対し、プリンターなど複合機の設計や製造のすべての工程を中国内で完結するよう求めている。将来的には、プリンターの仕様を統一した「国家標準」の策定を見据える。