需要が堅調な自動車業界にも景気後退の影──。逆境の中で迎える2023年は産業界にとってどんな年になるのか。各業界を担当する記者たちが主要10業種の近未来を予測する。




「(半導体不足が収束する時期が)2023年か24年かはよく分からない」。トヨタ自動車の熊倉和生・調達本部長は11月の記者会見で困惑の表情を浮かべた。「世界のトヨタ」でさえ、半導体の調達に翻弄されている。そんな状況が23年も続く。
状況が改善する期待はある。「世界的に半導体の供給過剰が鮮明になっている」(三井住友DSアセットマネジメントの白木久史氏)からだ。
ただ、すぐに問題が解決すると考えるのは早計だ。ホンダは海外で半導体が手に入らず、22年4~9月期の米国での販売台数が前年同期比44%減と大きく落ち込んだ。国内販売が5%減にとどまったのとは対照的だ。調達難は改善に向かいつつも、まだら模様に影響は残るだろう。
このように供給サイドに制約が残る一方、新型コロナウイルス禍からの経済回復で需要は旺盛だ。車を造れば売れる状態が続いてきた。トヨタは23年3月期の生産計画(トヨタとレクサスの合計)を従来計画から50万台減の920万台にしたが、それでも史上最高の水準だ。
そこへリスクとして浮上しているのが、米国など主要市場での金利上昇やインフレに起因する景気の変調だ。リセッション(景気後退)が現実のものとなれば、自動車メーカーは無傷では済まない。
日本勢にテスラは遠く
電気自動車(EV)シフトは大きな流れになっている。規制面での「脱ガソリン」に向けた各国の包囲網は広がっており、内燃機関に強い日本メーカーが世界戦略の見直しを迫られる構図は変わらない。

EV最大手の米テスラは22年に年間販売台数が100万台を初めて超えたもよう。高級車に特化し、中核の半導体やソフトウエアの開発から車両の組み立て、販売までを手掛けるEV事業の成功モデルを築き上げた。
待ったをかけるのは誰か。中国の比亜迪(BYD)は中国以外での実績は乏しいが、販売台数だけでいえばテスラに次ぐ2番手だ。残念ながら日本勢がEV市場で上位に割り込むには時間を要する。

日本の注目株はホンダがソニーグループと共同出資したEV事業会社ソニー・ホンダモビリティだ。技術と人材を持ち寄り、次世代のEVを生み出す試みだ。エンターテインメント機能を充実させた車と予想されているが、登場は25年とまだ少し先だ。これが刺激となって、自動車メーカーと異業種の合従連衡が進む可能性もある。
(小原 擁)
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