2023年の日本経済はお世辞にも明るいとは言えない。為替の円安、インフレと消費停滞、テックバブルの崩壊……。ビジネスパーソンが押さえるべき悲観の「リスクシナリオ」は。


2022年10月21日に外国為替市場で付けた1ドル=151円という32年ぶりの円安は、日本経済にとって衝撃的な出来事だった。円安は輸出企業の業績にはプラスだが、食料やエネルギーなどのコストは上昇し、輸入企業や家計には足かせだ。足元(12月15日時点)では135円台と一服したようにもみえるが、23年に向けて再び円安が進み「1ドル=150円時代」が訪れる可能性はなお残る。

「従来1ドル=100~120円だった円相場の変動域が、120~140円や130~150円にスライドしている可能性は高い」。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは指摘する。唐鎌氏が背景として挙げるのは「貿易黒字の消滅と対外直接投資の急拡大」だ。日本貿易会によると、22年度の貿易赤字(通関ベース)は20兆4560億円と比較可能な1979年以降で最大になる見通し。20 23年度も13兆5540億円の赤字になると予測する。
22年に急騰した原油などエネルギー価格は反落しているが、新型コロナウイルス禍前に比べればなお高い。一方で製造業は生産拠点の海外進出・移転を進めており、輸出はそれほど増えていない。結果、「流出超」「ドル買い超過」状態が続いている。
加えて、海外工場の建設のような対外直接投資は、円安になったからといって国内に簡単には回帰させられない。金融機関による有価証券取引と異なり、機動的に反対売買できる性質のものではないからだ。
円安誘う構造変化
かつてはいったん円安が進んでも、それを機に輸出が拡大したり、海外に蓄えられていた金融資産が国内に回帰したりして、円高が進むという修正メカニズムが働いた。時には円高要因が注目され1ドル=75円台のような水準を付けた。
今やその修正メカニズムが機能しにくい。大和証券によると、対ドルで1円円安が進んだ場合の主要企業(約200社)の経常利益の押し上げ効果は、直近で0.4%。約20年で半減した。構造変化によって円安のプラスの効果が薄れているというわけだ。唐鎌氏は輸出企業からですら、原材料や輸入部品も円安で高くなり、利益を増やせないとの声を聞くという。もはや日本は貿易立国とは言えないことを、22年の円安は示している可能性がある。
実際、22年前半の円安進行時には、同時にドル安も進んでいた。22年の円安はドル高だけのせいとは言えず、「構造的な日本売り的な円売りが起きたとみるのが自然」というのが唐鎌氏の見立てだ。
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