2023年、台湾有事が日本の安全保障政策における最重要課題となる。現実となれば、どのような事態が生じ得るのか。2つのシナリオを紹介する。打撃は台湾にとどまらず、日本企業が中国に持つ資産や在中国日本人にも及ぶ。

(写真=左・右上・中下:ロイター、右下:AFP/アフロ、背景:Jeffrey Coolidge/Getty Images)
(写真=左・右上・中下:ロイター、右下:AFP/アフロ、背景:Jeffrey Coolidge/Getty Images)

 「台湾が存在を失って中国に制されてしまえば(中略)次には日本の『存在』が脅かされる」。台湾総統を務め、民主化を推し進めた李登輝氏は著書『台湾の主張』でこう警告した。

 「日本の地理的位置づけからみても、台湾とその周辺が危機に陥れば、シーレーンも脅かされて、経済的にもまた軍事的にも、日本は完全に孤立することになってしまうだろう。(中略)台湾は、日本にとっても生命線なのである」。私たちは今、李登輝氏のこの言葉の意味を真剣に考えねばならない局面に立つ。


 中国が2022年8月、台湾周辺海域に向けて弾道ミサイルを発射した(下図)。1995~96年の第3次台湾海峡危機から約26年。この間、激しい波の立つことがなかった海域に再び大きなしぶきが上がった。米議会下院のナンシー・ペロシ議長が台湾を訪問。中国はこれを「台湾を独立国家として承認」に向かう動きと見なして反発したとみられる。

(写真=戦闘機:新華社/アフロ)
(写真=戦闘機:新華社/アフロ)
[画像のクリックで拡大表示]

 日本で「台湾有事」、すなわち中国による台湾武力統一が改めて人々の耳目を集めることになった。

 台湾有事が起こるのか否か。起こるとしたら、いつ、どのように起こるのか。専門家の意見は分かれている。その中でキヤノングローバル戦略研究所の峯村健司主任研究員は、2024年1月にも、中国が台湾統一に向けて動く可能性を指摘する。同氏は朝日新聞の中国特派員を長く務め、中国を間近に見てきた。