人手不足に悩む地方の中小企業や自治体にとって、副業人材は救世主となりそうだ。都市部の大手企業に勤める人を招き、知見を生かす仕組みができつつある。柔軟に働く副業人材が、日本経済の再成長を導く。

(イラスト=高田 真弓)
(イラスト=高田 真弓)

 「小さな会社にも一流企業で活躍する人材が来てくれた。おかげで事業の多角化に向け前進することができた」。交通誘導警備会社、なのはな警備(千葉県流山市)の田中一善社長は、8月に同社が開発したばかりの警備員向け研修システム「トラフィックコンダクター」を手に、笑顔でこう語った。

 建設現場や工事現場には欠かせない交通誘導警備員。同社は千葉県を基盤に手堅くその需要を確保してきた。だが新型コロナウイルス禍で状況が一変する。コンサートや祭りなどのイベント開催が難しくなり、イベント警備を主とする警備会社が交通誘導の需要を奪い始め、他社との競争が激しくなる。

 警備需要の減少に加え、警備員の高齢化や人手不足にも悩まされていた。経営の効率化や、新たな収益源の確保は喫緊の課題だった。

 活路を見いだすべく、国が用意した事業再構築補助金制度を活用した経営改善を進めることにした。その際、千葉県産業振興センターから副業・兼業人材の活用を勧められて出会ったのが、NTTグループでキャリアを積んだ山田修氏(41歳)だ。まずは月16時間程度の契約で働いてもらうこととなった。

 なのはな警備の田中社長は当初、警備業界の一部の業務をDX化できれば収益改善につながるのではという、漠然としたアイデアしか持っていなかった。山田氏を相談相手に色々話す中で明確になったのが、旧態依然とした警備員の教育体制を、IT(情報技術)の力で変えられないかという自分の問題意識だ。

警備のVR研修を提案

 交通警備員は現場に出る前に、法律で定められた時間の研修が求められている。だが、研修の中では難度の高い交通誘導をすべて経験できるとは限らない。警備員の質のばらつきが課題だった。

 危険な状況下でも的確に誘導するための訓練には、VR(仮想現実)を活用したらよいのではと、山田氏は田中社長をVRの展示会に連れていく。展示を見て、今の技術なら実現可能と、VRを活用した警備研修システムの開発に着手することを決めた。

 約1年間の開発期間を経て完成したのが、トラフィックコンダクターだ。ゴーグルを装着して目の前の映像を眺めることで、難度が高く危険な場面での誘導などを現場に行かなくても安全に体験することができる。今秋から、警備会社向けに外販を始めたところだ。

 山田氏はNTT西日本にて中小企業向けの営業やマーケティングに携わり、NTT秘書室での勤務経験も持つ。NTTドコモに転籍後は、当時同社が子会社化した大手料理教室の管理体制の構築にも関わった。新規事業のプロジェクトマネジャーも務めたことがある。

 なのはな警備での副業は、山田氏にとっても大きな自信になった。新規事業を実現させるための段取り、リスク管理体制の構築、マーケティングのノウハウなど、大企業で得た知見を生かすことができた。自分のキャリアの強みがどこにあるのか、再確認できたという。