副業は特別な働き方ではなくなりつつある。人材を送り出し、受け入れる体制作りが急務だ。だが副業解禁で生じる課題は少なくない。対応を誤れば裁判にまで発展する恐れもある。「知らなかった」では済まされない。主な課題とその対応策を把握し、トラブルを回避しよう。

 経済産業省で副業推進に携わった日比谷タックス&ロー弁護士法人の堀田陽平弁護士の元には、副業の解禁や受け入れで悩みを抱えた企業関係者が引きも切らず訪れる。

 下の表に示したように、副業に関連するトラブルは過去にいくつも起きており、尻込みする企業も少なくない。ただ社員の副業を黙認する姿勢を取り、「見て見ぬふり」をするのは悪手だ。トラブルが発生した場合、対応は後手に回る。「知らなかった」という言い訳が通じるとも限らない。むしろ風評被害を拡大させる懸念もある。「副業先の会社や仕事内容などをできる限り把握しておくことが、結局は会社を守ることになる」と堀田弁護士は指摘する。

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 では副業を解禁している企業や副業人材を受け入れている企業はどのような不安や課題を抱えているのか。リクルートが実施した調査を俯瞰(ふかん)すると、3つの課題が見えてくる。「情報漏えいや利益相反に対する懸念」「労務管理の難しさ」、そして「仕事の成果に対する不安」だ。

(イラスト=高田 真弓)
(イラスト=高田 真弓)
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事前申請を義務化せよ

 今年9月、回転ずし店「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトの社長が、転職前に在籍していた競合他社の仕入れ情報を不正に持ち出した疑いで逮捕された。経営幹部の転職が契機となった例だが、副業で2足のわらじを履く社員から重要な情報が他社に漏れるリスクはある。

 これを防ぐには、重要な情報を「営業秘密」として管理し、不正競争防止法の保護を受けられるようにしておく必要がある。併せて、副業をする社員に情報漏えいをしてはならないことを改めて認識してもらい、誓約書の提出や、秘密保持契約の締結を求めることが不可欠だ。

 また以下の4つの条件のどれかに当てはまる場合は、例外的に副業を禁止したり制限したりできる。1つは「労務提供上の支障がある場合」、2つ目に「業務上の秘密が漏えいする場合」、3つ目に「競業により自社の利益が害される場合」、最後に「自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合」だ。

 この条件に照らして、例えば重要な経営情報に触れる役員クラスの社員の副業について、営業秘密の漏えいや利益相反の懸念があるとして制限するといった対応をとることはできるだろう。ただ本業で培ったノウハウや技術を生かしたいと考える人は少なくなく、「線引きは難しい」(堀田弁護士)。トラブルを防ぐには副業を望む従業員が、いつ、どんな業種のどんな会社で、どんな副業をするのかについて事前に報告を受けておく方がよさそうだ。

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