自社社員の副業解禁も、副業人材の受け入れも、企業成長の原動力につながる。副業を認め、社員にキャリア自律や積極性が生まれれば人材開発の効果が期待できる。一方の企業は自社に不足する知見を持った人材を迅速に確保できる。先進事例を追った。
企業が副業・兼業に二の足を踏む大きな理由の一つとして挙げられるのが「人材流出」だろう。手塩にかけて育てた社員が副業容認で外の世界と接点を持ち、本業では得られないスキルを獲得する。人脈の広がりを通じて自社とは違う価値観に接する。
こうした経験の蓄積で、おのずと労働市場におけるその人の価値は高まるが、当の本人が、その高まった価値を基に、社外のキャリアパスを模索するのではないか──。こう企業が懸念するのは無理もない。
だが優秀な社員が外へ飛び出すリスクと、自社の社員がスキルアップするメリットを両てんびんにかけた場合、どちらに軍配が上がるだろうか。その答えは明白だ。

自社社員のキャリア自律や成長のために、2020年から副業制度を人事施策に組み込んでいるのが、創業130周年の生活用品メーカーの老舗のライオンだ。日本の人口が減少し、日用品市場が縮小傾向にある中、同社は今まで以上にスピーディーで力強い変化を必要としていた。
高い生産性と新たな価値創造を絶え間なく生み出すサイクルを作り出すには、多様な人材が互いを尊重しながらそれぞれの能力を発揮し、異なる視点や考え方を生かせる組織をつくる必要がある。この「強い個」をつくるベースとなるのが、社員一人ひとりの仕事に対するやりがいなのではないか──。そう考え19年7月に打ち出したのが「ライオン流働きがい改革」だった。
副業制度はこの働きがい改革の柱の一つとして導入された。その狙いは、社員の仕事やキャリアに対する「主役意識」「当事者意識」を副業を通じて醸成することにある。
生活用品メーカーとして長い歴史を持つライオンは、社内の団結力や社員同士の絆は深いものの、社員たちの間には「突出しないこと」「他者と足並みをそろえること」をよしとする風土があった。例えば過去に、自由なワークスタイルの一環で「服装自由化制度」を導入した時のこと。自由なはずが、一部の社員たちの間には戸惑いも見られたという。
「人からどう見られるか」よりも「自分がどうなりたいか」を意識する機会がないと、自分で自分の能力は伸ばせない。副業を通じて外から良い影響を受けたり、自分の強みを知ったりすることは、その手助けになるだろう。つまり、ライオンにとっての副業は「積極性の獲得」という、ライオン社員に欠けていた部分を補う、人材開発の一環の意味合いもあったわけだ。
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