生計維持の手段として認識されていた「副業」の持つ意味合いが変わり始めている。能力開発や人脈の獲得、キャリア構築に資する働き方として認識されているのだ。国や企業も、社員の成長を促し、イノベーションにつながる働き方として注目する。

企業経団連企業の半分が容認
1億総活躍社会の実現を目指し、2017年に政府が発表した「働き方改革実行計画」の中で、柔軟な働き方を推進する文脈で注目された「副業」という働き方。具体的には、1社でフルタイム雇用されていた正社員が、離職することなく別の企業や自営業者として働くことを指す。
政府が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、副業をしやすい環境を整備した18年は「副業元年」とも呼ばれた。だが当時、副業を容認している企業の割合は、リクルートキャリアの調査によるとわずか28.8%だった。
4年後の22年10月に公表された、日本経済団体連合会が実施した「副業・兼業に関するアンケート調査結果」では、回答企業の53.1%が「自社社員の社外での兼業・副業を認めている」と回答。認めたことで得られた効果に関しても「多様な働き方へのニーズの尊重」(43.2%)、「自律的なキャリア形成」(39.0%)と、前向きな文言が上位に並ぶ。
その大きなきっかけとなったのが、新型コロナウイルス禍を受けた働き方の変化だろう。リモートワークの浸透で、時間や場所にとらわれない働き方が可能となった。これを受け、自社の社員に柔軟な働き方を認める企業が増えた。
「学び」の観点からも副業制度に対する企業の期待は高い。副業を通じてこれまで1つの企業内にとどまっていた人材を外に出すことで、社員は副業先で新たなスキルや知識を習得できる。社内にいるだけでは接することのできなかった情報や人脈も得られる。それは事業拡大の機会につながるかもしれない。
つまり、副業という「越境学習」によって人材の質が向上するメリットが期待できるのだ。「人への投資」が経営課題として重要視される中、社員が自発的に学びに向かう動機付けにもつながる副業は、中高年社員に求められているリカレント教育やリスキリングとも相性が良い。社外でも通用するスキルを求める傾向の強い若手社員にとってもウィンウィンとなる。
新卒採用の呼び水になる
「若年層の副業に対する関心は高い。新卒採用市場においては、副業制度が優秀な人材の呼び水になるケースも。制度がなければ学生の足が遠のく」。副業人材の採用動向に詳しい、パーソルキャリアHiPro副編集長の鈴木健一氏はこう話す。
一方、副業人材の受け入れに関しても、企業のメリットは大きい。正規で雇い入れたり、外注したりすれば高い報酬を支払わなければならない人材を、予算を抑えながら迅速に確保できる。
労働市場にはなかなか出回らない、一流企業で働く人材や、転職市場では争奪戦となりやすい優秀な人材でも、副業ならば接点を持ちやすい。副業を機に、ゆくゆくは正社員として迎える新しいリクルーティングの手段としても活用できるだろう。
副業人材は、労働市場において費用対効果の高い人材と捉えることができる。企業の期待は高まる一方だ。
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