特許制度による技術公開は模倣を助長させかねず、むしろ秘匿が良いケースもある。変わり続ける盗みの手口に対応するには、柔軟な発想と官民の連携が欠かせない。リスク管理にゴールはない。まず経営者がそれを肝に銘ずることが第一歩だ。
米国での特許登録件数は36年連続で5位以内。日本企業としては17年連続トップ――。キヤノンが力を入れる知的財産戦略は、情報流出防止に取り組む企業への示唆に富む。
特許申請でなく「秘匿」も

技術やノウハウの公開や秘匿の線引きの基準をどこに置くか。キヤノンでは従来、①検証可能性②他社到達可能性③技術の重要性④公共性──の4つを重視してきた。近年は「経済安全保障の観点」を5つ目のポイントとして定めた。
故意や悪意のある特許権侵害には各国で訴訟を行う。米国では過去3年でトナーカートリッジやトナーボトルといった消耗品に関する訴訟を提起。30社に勝訴し、2社と和解している(係争中の案件を除く)。
商標権の侵害に当たる模倣品の撲滅に向けて、商標「Canon」を世界約190の国・地域で登録。どのエリアでも、キヤノンを装った模倣品を取り締まれる体制を整える。
模倣品も含め、知的財産権の侵害をいかに防ぐか。大切なのが、汎用的な技術と自社の強みが生かせるコア技術との線引きだ。特許に代表される前者は、内容を公表するため、漏洩リスクは高まるが、他社や大学などの研究機関といった外部との協業やライセンス供与に生かしやすい。後者は逆に参入障壁を維持するため、秘匿すべきだと考える(上の図参照)。
類似技術を有する競合他社の状況や、市場の成熟度合い、脱炭素化やデジタルトランスフォーメーション(DX)といった世の中の変化などを踏まえ、タイムリーに施策を実行するのがキヤノンの知財戦略である。
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