国家間の争いは、情報工作、経済制裁などを複合した「ハイブリッド戦」に。その新たな戦闘手段として浮上し、脅威を増しているのがサイバー攻撃だ。国家が主導し、経済的利益のために海外企業が被害に遭うケースも多い。

トヨタ自動車の国内全工場の稼働休止を招いたサイバー攻撃。国家の関与の可能性も(写真=ロイター/アフロ)
トヨタ自動車の国内全工場の稼働休止を招いたサイバー攻撃。国家の関与の可能性も(写真=ロイター/アフロ)

 3月1日、トヨタ自動車は国内にある全14工場の稼働を止めた。長く続く半導体不足が原因ではない。サプライヤーを標的としたサイバー攻撃が発端となった。

 狙われたのは内外装の樹脂部品などを手掛ける小島プレス工業(愛知県豊田市)。トヨタの1次部品メーカー(ティア1)の一社だが、デンソーなどのメガサプライヤーに比べればその事業規模は小規模だ。そんな小島プレスがコンピューターウイルス感染などを確認したのは2月26日夜のこと。翌日には感染拡大予防のため部品の受発注システムを遮断。部品供給は止まり、稼働停止に至る。

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 稼働停止は1日で済んだ。トヨタは国内でも随一のサイバーセキュリティー体制を敷いているとされ、だからこそ、影響は最小限に食い止められたと言える。ただ逆に言えば、巨大企業ですら、供給網の一角がサイバー攻撃を受けると、生産ラインがまひするということでもある。

 攻撃を仕掛けたのは「ロビンフッド」と名乗るハッカー集団だったとされるが、そのバックグラウンドは明らかになっていない。サイバー攻撃を受けたのがロシアによるウクライナ侵攻開始後で、そして日本を含めた西側諸国の首脳が足並みをそろえてロシアやプーチン大統領への制裁を明言した直後というタイミングだったこともあり、ロシアによる「報復」だとの観測が一部にある。

 松野博一官房長官はトヨタが工場の稼働を停止した3月1日、サイバー攻撃の実行者については言葉を濁したが「ウクライナ情勢を含む昨今の情勢からサイバー攻撃のリスクは高まっている」と話した。

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