公安調査庁は人材リクルート、投資・買収、不正調達など7つの流出経路を指摘。なかでも日本の技術の源泉となる頭脳の「海外移動」は深刻だ。リスクを「人材」「協力関係」「拠点」の3つに分類し、知財保護のポイントを探った。

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 「先生が開発した技術を世界に広めたい。うちの会社の技術顧問になってほしい」。桐蔭横浜大学の宮坂力・特任教授は4年前、かつて教え子だった中国人研究者から、こんな要請を受けた。新技術に意欲的な熱意に押され、了承した。

ペロブスカイト太陽電池を発明した宮坂力・桐蔭横浜大学特任教授。ノーベル賞受賞候補だ(写真=吉成 大輔)
ペロブスカイト太陽電池を発明した宮坂力・桐蔭横浜大学特任教授。ノーベル賞受賞候補だ(写真=吉成 大輔)

 宮坂氏は、次世代太陽電池として期待され、世界で開発競争が繰り広げられている「ペロブスカイト太陽電池」を開発した人物だ。フィルムのように薄く、ぐにゃりと曲げられる太陽電池の発明は「世の中を変える画期的技術」と称賛され、ノーベル化学賞の有力候補にも挙がる。

 製造コストは従来のシリコン太陽電池の約半分、厚さは100分の1程度になる。室内の壁面や自動車のボディーの曲面など、従来の太陽電池では設置困難な場所に配備できるため、脱炭素を加速させる切り札になる日本発の技術だ。

 国際的な注目を浴びるこの技術に目を付けているのが中国だ。

 データ解析支援のFRONTEO(フロンテオ)の調査によると、2019年以降のペロブスカイト太陽電池に関する論文数は1位が中国で5557。2位の米国(3401)や3位韓国(1463)を大きく引き離す。開発国・日本は822と7位に甘んじている。

(写真=吉成 大輔)
(写真=吉成 大輔)
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 宮坂氏は技術顧問就任後、中国ベンチャーと密にやり取りを続け、事業を支援した。生産工場にかかる建設資金が足りなくなった際は、自ら中国に赴いて現地企業を巡り、技術を説明して資金提供を呼びかけた。

 中国・江蘇省に生産工場を新設した中国ベンチャーは今年7月、世界で初めてペロブスカイト太陽電池の量産に成功。縦40cm横60cmのパネルを細かく切り分けてスマートフォンメーカーなどに納入している。

 中国から送られてきた製品を確認した宮坂氏は「正直、品質は高くないが、製品化までのスピード感はさすが。高品質にこだわる日本企業ではまねできない」と舌を巻く。

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