「Web3」と呼ばれるインターネットの一大構造改革が起きつつある。個人を解放するはずのネットの理想に反し、GAFAなど大企業の寡占が進んでいる。主役の座を個人に取り戻せるのか。カギとなるのが、新組織形態「DAO(ダオ)」だ。

 富士山の湧き水が街中の水路を巡る静岡県三島市。蒸留酒製造販売のWhiskey&Co.(東京・渋谷)がウイスキー蒸留所を立ち上げようとしている。2023年4月に小規模の蒸留所を開設し、バーボンテイストの三島限定ウイスキー造りを目指す。と、ここまでは普通の話。組織形態が謎に満ちている。

 「本日夜、勝手に作戦会議します」。11月中旬、オンライン上の組織内チャットで雑談の呼びかけがあった。誘ったのは、ウイスキー社の従業員ではなく、サポーターと呼ばれる参加者の一人だ。「蒸留所の建設が始まったんですよ」。計画そのものの発起人で、ウイスキー社の大森章平代表も顔を出して最近の活動を話す。

 この計画は、すべての参加者が意思決定に加わるオンライン組織、DAO(Decentralized Autonomous Organization=分散型自律組織)の仕組みを取り入れている。土台となるシステムを構築したのは、Web3事業を手掛けるフィナンシェ(東京・渋谷)だ。

 仕組みを見てみよう。メンバーの「しるし」として、デジタル権利証と呼ばれるトークンを買う。オンライン組織のチャット上で、活動の進め方を議論したり、議案に投票したり、熟成ウイスキー購入権が付いたり、トークン保有者は様々な権利が得られる。DAOでは参加者はいわゆる「お客様」ではない。ファンや株主、ユーザー、プロジェクト仲間を交ぜたような立ち位置で、一緒に計画を成功させるために動く。

 10月中旬から1カ月の時点で、ウイスキートークンを約300人が購入し、約1500万円を集めた。

「三島住民もそうでない人も参加者が交流しやすい仕組みを整えたい」と語るWhiskey&Co.の大森章平代表(右)
「三島住民もそうでない人も参加者が交流しやすい仕組みを整えたい」と語るWhiskey&Co.の大森章平代表(右)

 「知らない人同士300人がバーチャル上の組織、DAOでつながっているのは驚き」。こう明かす大森氏は、そのうちウイスキーのレシピやラベリングなど、投票で意見を募ることを検討している。ウイスキーは蒸留家のみが責任を持って造るのが普通で、参加者の意見を反映するのはDAOならではの取り組みだという。

 大森氏はかつてベンチャー企業の経営に携わり資金調達に奔走していた。だが、その中である思いが募る。本当に、利益や成長だけが価値といえるのだろうか。「地元にもトークンホルダーがいて、よくぞ三島に来てくれたと言ってくれる。最高のウイスキー造りに残りの人生を懸ける」。大森氏はDAOという組織形態こそ、理想を実現するのにふさわしいかもしれないと感じている。

 だが、ものづくりのDAOは世界的にも前例があまりなく、参加者とのつながりも単なるメーカーと顧客の関係性に終始しない仕掛けが必要になる。「中の人、外の人という境目をなくして参加する文化を創っていくことが欠かせない」。同社取締役で武蔵野大学教授も務める佐藤大吾氏はそう思案する。

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