後任はちゃんといます

従業員の給与を上げるためなら、リーダーとして嫌われ役になっても構わないと。

 もちろんです。論理と数字で導き出された結論には従わなきゃいけない。従業員に嫌われても、お客さんに嫌われてもそれはやらないといけない。

過去最高の利益を生み出せるまで改革を進めてきたわけですが、その反動として現場が「橋本頼み」になっていないでしょうか。また、橋本さんの存在が大きいゆえにモノが言えない雰囲気になっているということはないですか。

 そういうことはあり得るでしょうね。ただ、民主主義的にボトムアップを待っていられない、スピーディーに物事を決断しないといけない。そのスタイルは変えられません。それは自分のためではなく、会社のため従業員のためです。だから、弊害を考えて従業員とは一生懸命、対話をしています。夜もよく飲みに行っていますよ。みんなの前だと本音を言うのは難しいでしょうから、1対1でほとんどの役員と飲んでいます。

 当社は5年単位で社長が交代していますが、私もそのつもりです。そうでないと私のスタイルばかりになって会社としてよくない。モノ申せないのでは、というお話ですがちゃんと後任はいます。複数いる。

 発信力がないと社長は務まらないわけで、きちっと意見を言う部下でないと私の任命責任にもなる。慣例通り5年の任期で交代できるということは、ちゃんと人材が育っているということでしょう。

傍白

 一語一語が真剣で斬りつけてくるかのような迫力ある言葉でした。高炉休止、値上げ、そして訴訟。正しいと思えば敵をつくることもいとわない橋本さんの判断は「論理と数字で導き出された結論には従わなければならない」と極めて合理的です。

 「最初の1年半は現場でも経営会議でも怒鳴りまくっていた」と言います。苛烈な経営者のイメージですが、経営危機に陥っていた社長就任当時は「気が小さいので毎晩、夜中に目が覚めた」と打ち明けます。

 人に相談せず自ら結論を出すという橋本さんに「経営者としての孤独にどう耐えているのか」と聞くと、少し間があってこう答えてくれました。「それは責任感ですよ」

日経ビジネス2022年11月21日号 32~36ページより

この記事はシリーズ「沈まぬ日本製鉄 橋本改革、V字回復の真相」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。