国内の製鉄事業が4期連続赤字になり、日々キャッシュが出続ける中で、本当に自分が請け負って再建できるのかと思いました。ただ、受けた以上はやるしかない。決めたからには2年でやると覚悟しました。

 私が尊敬する経営者、ミスミグループ本社の三枝(匡名誉会長)さんが、(回復にかける期間は)2年と著書に書かれていたのと、現実的に今のキャッシュアウトの状況がこのまま2年続いたら倒れるところだったんです。金融機関の姿勢もこれ以上の貸し出しはできないという感じになっていました。

 危機の真因は(10年前の新日本製鉄と住友金属工業との)経営統合です。私は、経営統合は会社をよい方向へ向かわせるきっかけになっても、それ自体は(経営改善の)対策にはならないと思います。外には立派なことを言っているけど、お互い苦しくなって統合したわけですよね。

 両方とも大会社で、ある日突然一緒になると、旧住金は3倍の規模になり、旧新日鉄も5割増の会社になる。すると社員は全体感が分からなくなるんです。今、会社が置かれている状況が分からない。

統合が危機の真因というのは興味深いですね。合理化の要となった、粗鋼年産能力5000万トンを1000万トン削減するという号令は社長就任後にすぐ出したのですか。

 就任直後というか、役員体制が決まったらすぐにそういうことになるぞ、とは言っていました。諸悪の根源は余剰能力。余剰能力を削るには高炉から止めるしかないわけですが、それを分かってもらうため、製鉄所には国内製鉄事業だけの損益を取り出して公表しました。今までそんな話をしたことがありませんでしたが、財務の資料を誰でも分かるようにして出しました。

 製鉄所では「自分の給与を自分で稼いでいない。子どもや孫に頼っている老人と一緒だ」と相当乱暴なことも言いましたが、それも社内にインパクトを与えるためでした。

 改革中は大きい製鉄所は年2回、小さいところも最低年1回は回って対話しました。新型コロナウイルスが広がる中でしたが、年三十数回は出張しましたし、今もしています。製造部長とか、(各工程の長である)工場長たちなどと対話した頻度でいえば、今までの社長の中で一番多いのではないでしょうか。12人の営業部長とも一人ひとり、2カ月に1回、直接対話しました。

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