橋本英二社長の進めるグローバル経営が新しいステージに入った。鋼から完成品まで現地で一貫生産するため、インドやタイで巨額投資に突き進む。鉄は国家なり──。目指すのは海外でも国の発展を担う基幹産業請負人になることだ。
インド
中国勢入れぬ巨大市場 ミタルと一貫生産

インド北西部の都市スーラットから西南へ車を約1時間走らせると、河口沿いに巨大な製鉄プラントが姿を現す。欧州アルセロール・ミタルが60%、日本製鉄が40%を出資するAM/NSインディア(AMNSI)の旗艦拠点、ハジラ製鉄所だ。
東京都中央区以上の広大な敷地に、粗鋼の年産能力で約900万トンに及ぶ設備が並ぶ。2021年のインド国内のシェアは5位だ。
現場は活況そのものだ。上工程の製鋼現場では溶けた鉄が入った巨大鍋が天井のクレーンで次々に運ばれ、炉に流し込まれる。下工程の圧延ラインでは薄く延ばされたコイルが休む間もなくロール状に巻き取られ、保管場所で出荷を待つ。
AMNSIの橋本淳CTO(最高技術責任者)は「日本とインドで大きな技術の差はなくなっている。オペレーションの腕も着実に上がっている。何よりアグレッシブ」と目を細める。
圧延ラインから奥へ進むと、雑草が生える敷地が広がるが、3年後この風景は一変する。需要減少が止まらない日本で今後、目にすることはないであろう高炉が建設されるのだ。
自動車用鋼板もターゲットに
約4100億ルピー(約7300億円)をつぎ込んで、2基の高炉のほかに、不純物を取り除いて高品質の鋼をつくる転炉や、溶けた鋼を板状に成型する鋳造設備など一貫生産のラインを設ける。25年後半から生産能力を年1500万トンへと現在の1.5倍に引き上げる。
それだけではない。22年8月、前身であるエッサール・グループから製鉄に関わる港湾や発電所などインフラ群を24億ドル(約3400億円)で取得すると発表した。
同年4月には高級鋼板を量産する下工程のライン新設も決めた。約1400億円を投じており、同社初の自動車用鋼板ラインとなる。現場では建屋新設の重機がうなりを上げる。
日鉄とミタルは19年12月、当時インドの製鉄4位だったエッサールを約7700億円で買収。日鉄の海外の企業買収としては過去最高額に達した。
日鉄とミタルの出資比率は違うが、同じ数の取締役を送り込んでおり「実質的に経営はイコールパートナーシップ」(AMNSIの永吉敬洋副社長)となっている。例えば設備の新設・更新を議論する定例会議。「(機械で鋼板のサイズを自在に変える)サイジングプレスはいらない!」「いや、柔軟な品種構成に対応できるのだから必要に決まっている!」。ミタル、日鉄、インドの技術責任者が対等に議論する。製鋼の副産物「スラグ」の処理方法一つを取っても各国で考え方が違うが、妥協はせず意見を戦わせる。
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