新型コロナウイルス感染からの回復後も、後遺症に苦しむ人がじわりと増えている。微熱や倦怠(けんたい)感が数カ月続き、職場での生産性を損ねる事例もあるようだ。後遺症に悩む社員を支えるため、企業にも対策が必要だと有識者は警鐘を鳴らす。

 「新型コロナの感染前は平日で片付けられた仕事量なのに、今は土日も働いてようやく終わらせている……」。そうこぼすのは、都内の大手ITコンサルティング会社で働く30代男性のA氏だ。

 2022年6月に罹患(りかん)し、39度台の高熱や、焼け付くような喉の痛み、激しい頭痛などに襲われた。症状は2週間ほどで落ち着いたものの、そこから約半年近くが経過した今日も後遺症に悩まされている。

軽視できない後遺症問題

 最初の症状は全身の倦怠感だった。歩いたり、家事をするだけでも体にだるさを覚える。新型コロナ感染前の元気な状態の体力を「100」とすると、「しっかり休息しても70程度までしか回復しない感覚だ」という。

 だるさを感じてから数日後、今度は別の症状が表れた。頭の中に霧がかかったようにぼうっとしてしまい集中力を維持できない。思考力が低下する「ブレインフォグ」と呼ばれる症状だ。A氏の場合、取引先の資料を編集する時間が大幅に延びたという。「情報をロジカルに説明する際、順序が適切かどうかなどの判断が難しくなった気がする」(A氏)

 A氏は平日、午前9時から午後10時まで働くのも珍しくなかった。「今は午後5時すぎには心身共に疲れて仕事が手に着かない」と話す。体調を優先して遅くとも午後7時には仕事を切り上げるため、休日に仕事をしなければ帳尻が合わなくなった。

 新型コロナは世界各地で猛威を振るっただけに、多くの知見が蓄積されている。診断や治療、予防法の確立が進む中で、後遺症への対応は新たな課題となっている。海外では「Long COVID」と呼ばれ、病態についてはいまだ不明な点も多い。

 代表的な症状は倦怠感や呼吸困難、筋力低下、集中力低下、脱毛など多岐にわたる。世界保健機関(WHO)の定義では、こうした症状が3カ月以内に2カ月以上持続し、かつ他の疾患による症状として説明がつかないものがコロナ後遺症に該当する。

 肺などの臓器がウイルス感染によって障害されたり、免疫調節不全に陥り炎症が起こったりなどがコロナ後遺症の原因と考えられている。だが、実態把握は難しい。そのため東京都では自治体による独自調査も始まっている。その一つが世田谷区だ。

 世田谷区は新型コロナに感染した患者を対象に、オリジナル型・アルファ型の一部が流行していた20年3月~21年4月(第1~3波)と、アルファ型・デルタ型が流行していた21年4~9月(第4~5波)の期間で2回の調査を実施。調査に協力した約半数の患者が、何らかの後遺症を患っていたことが判明した。

 いくつかの特徴も見えてきた。例えば、デルタ型などの変異株に感染した場合は、オリジナル型より高い確率でコロナ後遺症が発症する。第1~3波では後遺症患者の割合は48.1%だったが、デルタ型中心の第4~5波では54.2%に上昇した。現在主流のオミクロン型に関して世田谷区では調査をしていないが、東京都が5月に公表した別の調査では、オミクロン型における倦怠感やせきなどの症状が出る割合は、デルタ型の流行時よりも高かった。

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