海外企業は規制当局と連携し、変異型ウイルスに対応したワクチンの開発を急ぐ。新型コロナワクチンの開発で“周回遅れ”が指摘される日本企業とは対照的な動きだ。「ワクチン貧国」は昨日今日の課題ではない。コロナ禍を契機に抜本改革が必要だ。

オミクロン型に対応したワクチンの追加接種が進むが、日本オリジナルのワクチンはまだ承認されていない(写真=共同通信)
オミクロン型に対応したワクチンの追加接種が進むが、日本オリジナルのワクチンはまだ承認されていない(写真=共同通信)

 「新型コロナワクチンの開発に、終わりはないのか」──。

 パンデミック発生から1年足らずでメッセンジャー(m)RNAワクチンの実用化にこぎ着けた米モデルナ。その日本法人のモデルナ・ジャパンで承認申請業務などの責任者を務める今村均取締役は、こう口にした。

変異型対応は2カ月で実用化

 感染拡大の波を乗り越えたと思ったら、すぐに新たな変異型ウイルスが出現して次の波が立ち上がる。ワクチン開発も、変異型出現とのいたちごっこになりつつある。

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 2022年5月下旬に来日したモデルナ最高医療責任者(CMO)のポール・バートン氏は、変異型に対応するために開発している改良ワクチンについて説明。オリジナルの武漢型とベータ型に由来する抗原を組み合わせた「2価ワクチン」が、臨床試験ではオミクロン型やデルタ型のウイルスに対しても免疫反応が得られたと語った。「並行して武漢型とオミクロン型(BA.1)由来の抗原を組み合わせたワクチンを開発しており、近く臨床試験の結果が出る。22年秋の追加接種用は、こちらが最有力の候補だ」と語った。

 ところが、事は思惑通りに進まない。22年前半はオミクロン型でも「BA.1」「BA.2」の系統が主流だったが、年央には「BA.4」「BA.5」が強く警戒される状況になっていた。米食品医薬品局(FDA)は6月下旬に専門家などによる会議を開催した上で、ワクチンメーカーに対して、BA.4-5由来の抗原を含む追加接種用ワクチンを22年秋のシーズンに向けて開発することを「推奨」した。

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 上の表のように、モデルナ、米ファイザーとドイツのビオンテック連合は、当時それぞれBA.1に対応したワクチンを開発し、臨床試験を終えていた。会議で両社はそのデータを報告していたが、FDAはBA.4-5対応を開発し、BA.1対応ワクチンの臨床試験データと、BA.4-5対応ワクチンの動物実験と品質などのデータを提出するよう提案したのだ。

 「BA.4-5対応ワクチンを、『臨床試験のデータなしで緊急使用許可(EUA)する』というのは異例の出来事で驚いた」と今村取締役は言う。結局モデルナ、ファイザーともBA.4-5対応ワクチンの開発にかじを切り、8月20日過ぎにFDAに承認申請を提出。FDAは推奨してから2カ月後の8月末に両社のワクチンにEUAを出した。通常なら10年近くかかるワクチン開発を1年足らずで終わらせる「ワープスピード作戦」を実行した米国だけあり、変異型対応でも異例のスピードを見せた。

 欧州と日本の当局は臨床試験データのあるBA.1対応ワクチンの実用化を優先。結果、日本でBA.4-5対応ワクチンが使えるようになったのは米国よりも1カ月以上遅かった。ただ、速いペースでの変異型の出現という未知の事態に対し、各国の審査当局とメーカーが議論と試行錯誤を重ね、有効で安全なワクチンを速やかに国民に届けるべく、努力を続けていることは理解すべきだろう。

 だが、安心はできない。米国ではBA.5から派生した「BQ.1」「BQ.1.1」という変異型が急速に拡大している。米疾病対策センター(CDC)が10月29日に発表した推定によれば、1週間の新たな感染の14.0%がBQ.1、13.6%がBQ.1.1で、1カ月前の合計2.6%から10倍以上に増えた。

 BQ.1、BQ.1.1は、感染力の高さと、ワクチンなどの免疫を回避する可能性から警戒すべきとの声が強まっている。感染状況次第では22年冬にかけて、各国はワクチン戦略の修正を迫られるかもしれない。新型コロナワクチンの開発が終わりなく続くというのも現実にありそうだ。

日本企業は周回以上の後れ

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 上に示したようにパンデミックから2年半以上が過ぎ、米欧アジアで実用化されたワクチンは増えてきた。ただ、変異型への対応で実用化にこぎ着けたのは、「ファイザー・ビオンテック連合」と「モデルナ」の2グループだけ。英アストラゼネカや米ジョンソン・エンド・ジョンソングループのヤンセンファーマは変異型対応ワクチンを開発していない。米ノババックスは「22年中にオミクロン型対応のワクチンを実用化する」と表明しているが、提携先の武田薬品工業は10月27日、「現時点で公表できる情報はない。厚生労働省などと相談しながら検討したい」(岩崎真人代表取締役)と述べるにとどまった。