経営を多角的に監督する女性社外取締役の需要が急増している。だが多くの企業の本音は、指針の形式要件を満たすことにあるようだ。現状では、実践的なガバナンスへと進化できる企業は限られる。
「女性の社外取締役を探してもらえませんか」──。フリーランスの女性を中心とした人材紹介業のWaris(ワリス、東京・千代田)には2019年ごろから、こうした依頼が徐々に舞い込むようになった。当初は断ることもあったが、企業からの依頼は増える一方。ビジネスになると判断して21年1月、役員クラスの女性の紹介事業に参入した。
事業開始から今年9月末までの依頼件数は約140。このうち3割が社外取締役の案件だ。求める人材像を企業にヒアリングし、登録者の中から数人を候補として紹介。その後、企業と候補者が2~3回面接し、経営トップや指名報酬委員会の承認を経て、株主総会で選任される流れだ。
昨年6月のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂では、東証プライム(旧東証1部)上場企業に取締役の3分の1以上を、東証が定める要件を満たす「独立社外取締役」にするよう求めた。日本取締役協会によると、東証プライム上場企業の社外取締役の延べ人数は約7000人。過去10年間で約4倍に膨れ上がった。中でも引く手あまたなのが女性で、“女性社外取バブル”の様相だ。統治指針の改訂で、中核人材として女性や外国人、中途採用者を登用して多様性を確保するよう求められたことなどが背景にある。
企業統治助言会社のプロネッド(東京・港)の調査では、女性社外取締役の選任企業(東証プライム)が今年、1300社を突破。10年前の約70社から実に19倍だ。全体に占める選任企業の比率も4%から71%に急増した。しかし、経営者と対等に渡り合えるほどの知識と経験を備えた人材は少ない。同社の酒井功社長は「ある程度の大企業で役員などの経営経験をもつ女性の候補は限られる。売上高5000億円以上の会社の経験者でいうと、200~300人くらいではないか」と指摘する。だが、統治指針を順守するために女性人材にこだわる企業は多く、経営経験はなくてもエンジニアや研究者といった専門性を持つ女性が次々と登用されている。複数の企業で社外取締役を兼務するケースも少なくないが、それでも足りないのが実情だ。
人事関連サービスのSOICO(東京・港)は昨年、社外取締役に必要な基礎知識や振る舞いを教える養成講座を始めた。社外取締役の経験はないが、専門性の高い女性が主なターゲットだ。講座では4日間の計10時間にわたり、ガバナンスや会計の知識を学ぶほか、現役の上場企業社長が応対する模擬取締役会にも出席できる。共同創業者の土岐彩花氏は「実際に議題を作って議論し、取締役会の雰囲気に慣れてもらうことが目的」と話す。これまで計50人程度が受講し、未経験で上場企業の社外取締役に“成約”した例も出ているという。

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