2000年ごろから物言う株主(アクティビスト)が権力を持ち始めた米国。日本では「黒船」でも、母国では企業革新を助ける「支援者」に進化した。社外取締役が経営執行に主体的に関与する「ボード3.0」を追った。

2021年5月、米国のあるアクティビストの名がウォール街中を駆け巡った。エンジン・ナンバーワン。投資家で慈善活動家のクリス・ジェームズ氏が20年にサンフランシスコで立ち上げた、ESG(環境・社会・企業統治)特化型のファンドだ。
舞台は米石油大手エクソンモービルの株主総会。社外取締役の議席獲得に向け、エンジンは20年12月から着々と準備を進めていた。
「エクソンの温暖化対策はスピードが遅すぎる。取締役会にはエネルギーに詳しい社外取締役もいない。株主利益を著しく損なう恐れがあるため、新たに4人の社外取締役候補を提案する」──。エンジンはエクソン株の0.02%しか保有していなかったが、こんな書簡を同社に送りつけ、他の株主の協力を仰いだ。
採用したのは「トータル・バリュー・フレームワーク」と呼ぶ戦略だ。ESG対応はこれまで利益ではなくコストと考えられてきたため、投資家の多くは経営への影響を考慮してこなかった。だが、米連邦政府や州政府が脱炭素に向けた規制強化に動く中、対応の遅れは将来の罰金や訴訟の種となる可能性が高まった。その未来に想定される経済損失を、社内データは入手できないため、国連などが提供する一般公開データを基に算出、他の株主の説得を試みた。
そして迎えた株主総会。エンジンは取締役の全12議席のうち3議席を獲得する「大勝利」を挙げた。米ブラックロックや米バンガード、米ステート・ストリートなど、エクソンの主要株主がこぞってエンジン側に付いたことが勝因となった。株式市場もエンジンの勝利を好感。エクソンの株価は、エンジンが公開書簡を送った20年12月比で50%超上昇した。原油価格高騰の影響もあるが、同業他社と比べても大きな上昇となった。
「敵対」はもう利益を生まない?
「まず明確にしておきたいのは、短期的視野に立ちがちな従来のアクティビストと異なり、長期的視点で会社の革新を促す『エンゲージド・オーナー』である点だ」
エンジンに取材を申し込むや、こんな返答が来た。プロローグで取り上げた東芝のように、多くのコーポレートガバナンス(企業統治)の現場で企業とアクティビストの利害が対立し、泥沼の攻防が繰り広げられている。だが、泥沼の攻防は会社を疲弊させるばかりか倒産すら招きかねない。会社はもちろん、株主であるアクティビストも損をする。
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