少子化問題を克服するために日本の行政や企業が今からできることは何か。取材を踏まえ、国が縮む危機を皆が「自分ごと」にするための提言をまとめた。

7月のある日、化粧品会社ランクアップ(東京・中央)の新入社員、宮本哲司さん(22)は、退社する先輩社員と共にいつもより早くオフィスを出た。向かった先は先輩の自宅。午後8時まで、そこで先輩の1歳半になる子どもの世話や家事を体験する。
この日は幼児食を作って食べさせ、その後お風呂に入れた。安全に気を配りながら遊ばせている間に、料理をしたり片づけをしたりする「同時作業」も経験。座る暇もなく、あっという間の4時間だった。「親として責任を持って子どもを世話するのがこんなに大変とは知りませんでした」。宮本さんは大きな気付きを得た。

今年4月、ランクアップはこの「育児体験制度」を新設した。子育ての経験を持たない社員が「リアル子育て体験」を通じて、立場の違う社員への理解を深めたり、自身のライフプランづくりの参考にしたりするのが狙いだ。
子育て生活への理解促進
ランクアップは社員の約4割が子どもを持つ母親。彼女たちの声を反映しながら柔軟な働き方を進め、子育てと仕事の両立を応援してきた。

ユニークな制度としては、子どもの預け先がない時のための「子連れ出勤制度」もある。学校が長期休暇になると、職場には子どもを連れた社員の姿がちらほら。キッズスペースも設けられる。遊びに飽きた子どもが作業する母親のそばにやってくると、母親が子どもを膝の上に乗せてキーボードを打つ。
「子育てを会社に持ち込むな」との批判もあるだろう。だが見方を変えれば、子連れ出勤は、育児とはどういうものなのか、仕事と両立する上でどんな苦労があるのか、同僚に知ってもらえるいい機会になる。
4月1日現在、日本における15歳未満の子ども数は1465万人。実に41年連続で減少した。総人口に占める比率は11.7%と、1970年代の約半分だ。子どもがいる家庭はマイノリティーとなり、日本人の多くが子どもと接する機会を失っている。
「子どものいる生活」が当たり前でなくなってしまった今、相互理解を深める仕組みを意識的に作らない限り、子どもの数は増えない。
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