DXは「ヒト」すなわち人材情報の可視化も可能にし始めた。人的資本などの「非財務情報」の開示は株式市場でも有力な材料となりつつある。企業価値ひいては事業構造にもつながる、新たな見える化戦略が不可欠になる。

(写真=sot/Getty Images)
(写真=sot/Getty Images)

 挑戦する風土が着実に強まってきた──。大日本印刷(DNP)の幹部が最近感じる手応えは、単なる印象論ではない。根拠はグループ従業員約3万人へのアンケートを基にしたエンゲージメント関連のスコアが、1年で4ポイント上昇したことだ。印刷を祖業としながらも、多角化を進めて既に利益の半分は電子部品などエレクトロニクスが占める。今後も成長を持続するため、「挑戦する風土」の把握・可視化は経営にとって重要課題だ。

 可視化に当たってDNPはアトラエのオンラインツール「Wevox(ウィボックス)」を導入。「挑戦心」など従業員の心理度合いをエンゲージメントとしてスコア化する。DNPでは設問数を16に設定。回答にかかる時間は2分程度と従業員の負担も小さい。従業員一人ひとりに毎月、調査を実施して、即座にスコアをはじく。「以前のサーベイは組織ごとのフィードバックに数カ月かかっていた。リアルタイムで把握できるのがメリット」(価値創造推進本部業務革新推進室の立野和浩室長)だ。

従業員のやりがいを簡便迅速にスコア化する
従業員のやりがいを簡便迅速にスコア化する
●アトラエが提供するツール「Wevox」 大日本印刷の乾正隆氏は、スコアや分析を毎週の部下とのミーティングで活用する。負荷調整のきっかけになったことも 注:上2点はイメージ

 食品業界向けパッケージの営業を手掛ける乾正隆氏は、部下と毎週1対1の話し合いの機会を設ける際に結果を参考にする。負荷がかかりすぎていないかなど、チームのパフォーマンスを最大化するのに役に立っているという。「時間差なく結果を共有してもらえるのは大きい」(乾氏)。部署や業務内容でスコアの水準にばらつきはあるものの、スコアの変化の原因を分析することで、工夫している事例を横展開したい考えだ。

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