テクノロジーの進化に伴い、勘と経験に頼ってきた「聖域」が消えようとしている。商品の値引きや接客力、従業員の貢献意欲からメンタルヘルスの分析まで。「何もかもが見える」ようになった時代、目をそらし続けていては勝ち残れない。

おにぎりやパン、弁当、総菜。賞味期限が迫っているのに、棚から商品がなかなか減らない。こんなとき、直ちに値下げすべきか、もう少し待つべきか。値下げするにしても、何円引けば、廃棄ロスを減らしながら店の利益を最大化できるのか──。長年の勘と経験がものをいう世界に「可視化」の波が押し寄せている。
コンビニ大手のローソンがこの夏、都内の162店舗で実施したのは、AI(人工知能)を使って最適な値引き額を算出する実証実験だ。
賞味期限が短い商品を対象に、昼と夕方に1回ずつ、夜は2回、AIが「値引き推奨」のアラートを出す。パソコン画面を確認すると、どの商品を何円値引きすべきかが表示され、ボタンを押すだけで値引きシールが印刷される仕組みだ。勘や経験が介在する余地は、もはやここにはない。
コンビニの経営はフランチャイズ契約によって成り立っている。「複数の店を営むオーナーも多い。値引き判断を経験の浅い従業員にも任せられるようになれば負担減につながり、仕入れ予測もしやすくなる」(次世代CVS統括部の石川淳マネジャー)
ローソンはそう考え、過去の販売実績や来店客の行動パターン、混雑する時間帯といった情報に、加盟店オーナーへのヒアリングも組み合わせ、値引きの精度を高めていった。
約3カ月の実験では、対象商品群の廃棄額を約4%減らし、粗利を約1%増やす目標をおおむね達成したという。至難の業を機械化することで、店の利益を伸ばす結果を得られた。ローソンは2023年度中に、このシステムを全国展開する計画を描く。
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