想望──。札幌市から車で約3時間、北海道西南部の港町・寿都町にある弁慶岬。「だし風」と呼ばれる強い風が吹く岬にそびえ立つ弁慶像の台座に、その2文字が刻まれていた。

 日本海を望むこの地には、源義経とその家来の弁慶にまつわる伝説がある。1189年、戦で難を逃れた義経は、この地に一時滞在。「援軍がえぞ地に向かった」との情報を得て、弁慶は毎日岬に立ったが、船影を見ることはついぞなかった──。そんな言い伝えだ。

漁業が基幹産業の北海道寿都町(写真=池内 陽一)
漁業が基幹産業の北海道寿都町(写真=池内 陽一)

 そんな弁慶の姿と重なる人物がいた。片岡春雄氏。寿都町長だ。町では、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けて、関連の資料やデータを調べる「文献調査」が進んでいる。

(写真=池内 陽一)
(写真=池内 陽一)

 「文献調査に手を挙げる他の自治体が出てこなければ、町内での議論の輪も広がらない」。一部の町民を集めて9月下旬に開かれた勉強会の終了後、片岡町長はいら立ちを隠さなかった。その矛先は、報道陣と、事業の当事者である原子力発電環境整備機構(NUMO)にも向かった。「メディアは町民に不安感を与えないようにしてほしい」「NUMOは早く(文献調査に手を挙げて)我々の仲間となる自治体を見つけてほしい」

日本海が一望できる「弁慶岬」は、源義経の伝説にまつわる弁慶像が立つ(写真=池内 陽一)
日本海が一望できる「弁慶岬」は、源義経の伝説にまつわる弁慶像が立つ(写真=池内 陽一)

 漁業が基幹産業である人口2700人余りの小さな町で、核ごみの最終処分場の問題が突如浮上したのが2020年8月。同年11月、寿都町と北海道神恵内村で文献調査が始まった。最終処分場の選定は3段階ある。文献調査は第1段階で2年程度とされ、最大20億円の交付金が支給される。第2段階の「概要調査」は4年程度行われ、最大70億円を支給。第3段階の「精密調査」は14年以上かかるとされ、交付金額は未定だ。

町長が文献調査を主導

 岸田政権が原発再稼働を進める方向へ転換を図るなか、原発から出る核ごみをどうするかは喫緊の課題だ。最終処分場のない原発は「トイレのないマンション」ともやゆされる。議会が誘致請願を採択するなど、村民の一定理解がある神恵内村に対し、寿都町は町長が旗を振って調査に応募したという違いがある。応募前、町議などから反対の声が上がったが、片岡町長が決断した。賛否が渦巻き、町民の間で分断が起こった。