社員の孤立・孤独解消のカギは、幸福度を上げる取り組みだ。会社に個人が合わせる考え方の転換。社員情報の社内公開……。文化を一変する大改革で、人材力再構築につなげる企業も出てきた。
「育児をしている時、仕事との両立が大変でした」
「どうやって乗り越えたの」
「職場の人が助けてくれてとてもありがたかった。今度は私がサポートする側に回りたいですね。私はこれをマイパーパスにしようかなと思ってます」
損保ジャパン

SOMPOホールディングス傘下の損害保険ジャパン会計統括部の髙井裕美子課長は昨年春から19人の部下と1対1で毎週のように、こんなミーティングを繰り返している。
これは会話の中にも登場したマイパーパスを設定するための話し合いだ。「パーパス」は最近、「存在意義」といった意味の経営用語としてしばしば使われるようになっている。SOMPOでいうマイパーパスとは、「(社会に対して)自分がやってみたいこと、実現したいこと」だとSOMPOの村上信毅・人事部課長は言う。
日本の企業と社員の関係は長く会社主体だった。入社後の配属、転勤・昇進、評価は全て会社の思惑で決まる。個人の側もそれを不思議と思わず、単身赴任も、意に染まぬ異動も受け入れてきた。昇給と昇進は、そのための即物的な見返りだった。ところが、この10年足らずの間にそれは大きく変わってきた。
変質したコミュニケーション
PART2でも触れたように価値観などにおける会社と従業員のずれは、今は、孤立・孤独の要因になる。従来は、昇進ややりがいなどで従業員のやる気を高めて会社に引き付けていたが、若い世代ほど、それは一時的な「刺激」にすぎず、長続きのするものではなくなってきた。
一方で、例えば育児休暇制度があっても事実上、男性は取りにくいといったことは、最近の従業員には認められにくくなっている。ワークライフバランスなどの社会課題への会社の関心が薄いか、本音と建前の違う古い会社と見なされるからだ。
SOMPOの取り組みは、そんな会社と従業員の関係に切り込むものだ。会社が掲げる存在意義に従業員はただ合わせるのではなく、「個人のパーパスがあって、それを実現する場として会社がある」(村上課長)と考える方向へ逆転を促し始めたのだ。
それだけではない。マイパーパスを策定して公開すれば、上司・同僚の人柄・考え方、行動をより深く知ることができる。そうなれば従業員の間のコミュニケーションも、指示・報告・評価といったそぎ落とされたものから、より多様になる。
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