新型コロナウイルス禍でリモートワークが定着。効率化は図られたが、人とのつながりが薄まり、心の中に潜む孤独感が増大している。組織への帰属意識の喪失やエンゲージメントの下落が止まらない。

新型コロナウイルス禍で多くの企業がリモートワークを導入したが、心身の調子を崩す人も出ている(写真=yellowpicturestudio/Getty Images)
新型コロナウイルス禍で多くの企業がリモートワークを導入したが、心身の調子を崩す人も出ている(写真=yellowpicturestudio/Getty Images)

 妻がリモートワーク鬱になりまして──。こう打ち明けるのは千葉商科大学准教授で働き方をめぐって積極的に発信を続ける常見陽平氏だ。勤務先の外資系大手IT企業は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年3月中旬からリモートワークへの移行を決定。通勤はなくなり、家族と過ごす時間は増えた。

 職場の人間関係は極めて良好で、ワークライフバランスも向上したようにも見えた。しかし、しばらくすると弱音を口にするようになる。「ちょっとつらいかも」

 リモートワーク開始から1年半になろうとする21年夏には目に見えて体調が悪化していた。「ぐったりしていることが多く、睡眠も浅かった」(常見氏)。病院にかかると、軽度の適応障害だと診断された。この間、一度も出社していなかったという。

 幸いにして休職するほどの容体ではなかったため、産業医と相談してまずは仕事量を減らし、適度な運動を日常に取り入れた。これまで以上に家事を引き受けるなど常見氏の支えもあって、半年ほどで体調は回復。元通り、ソフトのライセンス管理の仕事にいそしんでいるという。

表面的なやり取りばかり

 リモートワーク鬱の原因は何だったのか。常見氏は、いつでも仕事ができるようになったことで長時間労働や深夜労働を招いたこと、外出をしないことによる運動不足に加えて、孤独感を挙げる。

 リモートワークが定着したことで、毎日の生活から失われた、あるいは大きく減った通勤や同僚と肩を並べて働く体験に大きな意味があったのではないか。これが常見氏の指摘するところだ。

 通勤は気分転換や運動不足解消はもちろん、街の空気に触れることで社会の一員であることを確認する機会にもなっていた。職場でのたわいもない同僚とのやり取りが、イノベーションの源泉であり、組織の一体感を生んでいた。改めて指摘されるとうなずける部分がある。

 仕事のやり取りが対面からオンラインへと移ったことで、口頭ではなく、メールやチャットなどテキストでのやり取りが増え、雑談や内緒話は成立しづらくなった。偶発的なコミュニケーションが発生しないことに加えて、テキストが証拠として残ることに対する心理的なハードルもあるだろう。

 常見氏は嘆息する。「街の様子を肌で感じることがなくなり、仕事では極めて表面的なやり取りばかり。ものすごく空虚。そりゃ、心身共にまいりますよ」──。

 外出自粛や飲食店への休業要請、一斉休校、リモートワーク推奨。コロナ禍は私たちの生活を一変させた。感染拡大防止の観点から、職場の同僚や友人らとの交流は制限され、人と対面する機会は大幅に減った。故郷の両親にすら満足に会うことができない毎日が続く中、孤独感にさいなまれる人が急速に増えている。

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