人口減少とコロナ禍で、JR在来線の6割が国鉄時代の廃止基準を下回る。JR頼みの路線維持はもはや限界で、国主導の存廃論議が全国で始まる。鉄道存続かバスか、それとも他に方法があるか。地方に残された時間は少ない。
サラブレッドの牧場が点在し、風光明媚(めいび)な路線として知られたJR北海道の日高線。2015年1月の高波被害で鵡川(むかわ町)~様似(様似町)間の116kmが運休し、6年後の21年4月に復旧することなく、そのまま廃止となった。
「鉄道存続か廃止かの結論がなかなか出ず、3年間ずっと代行バス通学で不便な思いをした」。北海道新ひだか町役場に勤務する菊地蓮太さんは、高校時代をこう振り返る。
菊地さんが15年4月に入学した北海道静内高校は、廃止区間にある静内駅(新ひだか町)から徒歩15分ほど。自宅から約3km離れた本桐駅(同町)まで親に車で送ってもらい、そこから列車に乗ってドアツードアで1時間強の通学のはずだった。
財政負担できぬ自治体
だが、入学直前に鉄道は不通となり、代行バスで通学することになった。すべての鉄道駅に立ち寄るため、鉄路が山間部に入り込む区間では沿岸の幹線道路から迂回する時間のロスが大きく、通学は片道2時間近くに。朝6時に自宅を出る毎日だった。
この間、鉄道復旧を巡るJR北海道と新ひだか町など沿線7自治体との調整は一向に進まなかった。鵡川~様似間の輸送密度(1km当たりの1日平均利用者数)は運休した14年度でわずか186人。早期の運行再開を求める自治体に対し、同社は当初30億円前後とした復旧費用のすべては賄えないとして財政支援を要請。自治体が二の足を踏むと、16年11月に道内13区間を「単独では維持困難」とした上で、鵡川~様似間を含む輸送密度200人未満の5区間について「鉄道よりも利便性・効率性の向上が期待できるバス転換などについて地域と相談を始めたい」と事実上の最後通告を突きつけた。
それでも自治体は鉄路存続の道を模索し、道路と線路の両方を走るバス型車両「DMV(デュアル・モード・ビークル)」の導入なども検討したが、初期費用がバス転換の場合の18倍かかるとの試算が出て断念した。20年10月にようやく、鉄道廃止・バス転換を正式に受け入れた。
自治体やバス事業者はルートの見直しに着手。山間部を回るルートを残しつつ、沿岸部を走って菊地さんの自宅近くのバス停と静内高校前のバス停を乗り換えなしで結ぶ学生専用の便が設定された。通学は1時間を切り、車の送迎や徒歩区間もなくなって鉄道時代と比べても格段に楽になった。菊地さんは「今の生徒がうらやましい」と話す。
バスは輸送能力で鉄道に劣る半面、安いコストで柔軟にルート変更できるのが強みだ。新ひだか町内の大型商業施設「イオン静内店」も駅から15分歩いた国道近くにあるが、バス転換後はイオン前を通る便を増やして周辺自治体からのアクセスが改善した。同町の大野克之町長は「どの自治体も鉄道の復旧費を負担する体力はなく、現実的にはバス転換しかなかった。もう少し早く鉄道廃止を受け入れていたら」と悔やむ。
JR北海道が16年に公表した維持困難路線のうち5区間は今年8月までに廃止する方向で決着。今後の焦点は「鉄道を維持する前提で地域と相談したい」とした輸送密度200人以上2000人未満の8区間に移るが、人口減少に新型コロナウイルス禍が重なり、状況は深刻さを増している。
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